2026年10月29日、ネットのまとめサイトに「VIVANT放送終了か」という見出しが並び、ドラマのファンがざわつきました。

発端は前日の夕方、立憲民主党の小西洋之(ひろゆき)参議院議員がXに書き込んだ、この一文です。

「特定の国を敵視し、悪役に仕立て上げる番組編集は、TBSが採用する民放連放送基準に反し、その結果、放送法に反することになります」

ところが翌日、小西議員は「私のコメントは一般論を述べたもの」と言い直しました。

毎週楽しみにしているドラマが、本当に止められてしまうのか。

法律の名前まで出して言い切ったのに、次の日には「一般論」というのも、なんだかモヤモヤしますよね。

何が起きていて、そもそも誰に放送を止める力があるのかを、順に整理してみました。


中国の批判から始まった1週間

まずは、小西議員の投稿が出るまでに起きていたことから。

『VIVANT』は2023年に放送された日曜劇場の続編で、2026年7月26日から2クール(半年ほど)続けて放送されています。

前作は架空の国が舞台でしたが、報道によると、続編で登場したのが中国に関係する秘密情報組織「シンシー」。

日本の視聴者からも、名前の付け方にツッコミが入っていたわけです。

問題になったのは10月4日の放送回で、この組織のメンバーが、自衛隊の秘密組織「別班」の隊員に指を切断したり、腹部を刺したりする拷問を加える場面がありました。

中国のSNSで批判が出始めたのは、10月中旬だったそうです。

10月25日には国営の中国中央テレビ(CCTV)が公式SNSで論評を出して「敵意をあおっている」と批判し、翌26日には共産党系の新聞・環球時報も「中国脅威論を誇張している」と非難しました。

中国側が持ち出したのは、あの拷問は、かつて旧日本軍が中国の人たちにしたことと重なる、という理屈です。

そっちが言うのか、というツッコミは、ネットでもかなり多く見かけました。

 

そして10月28日、話はドラマの外へ飛び火します。

環球時報が社説で、ハローキティなどとVIVANTのコラボ商品を取り上げて批判すると、サンリオの中国法人が同じ日に声明を出して謝罪し、コラボの中止を発表したのです。

声明では、コラボに「企業理念と合わない表現」が含まれていた、と説明されていたと報じられています。

翌29日には、日本のサンリオも公式サイトでコラボの終了を発表しました。

TBSのショッピングサイトでも、関連商品のページが表示されなくなっているそうです。

ドラマそのものは止められなくても、取引のある会社なら動かせる。

中国側の言葉がまず効いたのは、放送の外側だったというわけなんですね。


TBS社長の説明のすぐあとに出た投稿

同じ10月28日、TBSの龍宝正峰社長は定例の記者会見で、この批判に答えています。

「特定の国を敵視したり、おとしめたりする意思はない」

あわせて、「完全なフィクションによるエンターテインメント作品」だと強調しました。

拷問の場面については、演出上の必要があるという前提で作ったとしながら、視聴者に不快感や恐怖を与えていないかは検討すべき課題だ、とも話しています。

開き直るでも謝るでもない、かなり慎重な答え方です。

この会見を伝える共同通信の記事が配信されたのは、17時06分でした。

小西議員の投稿は、その36分後の17時42分に出ています。

TBSの説明が、もう世に出たあとの投稿だった、ということ。

投稿には、民放各社でつくる日本民間放送連盟(民放連)の放送基準から、3つの項目が並べられています。

  • 国および国の機関の権威を傷つけるような取り扱いはしない
  • 国際親善を害するおそれのある問題は、その取り扱いに注意する
  • 人種・民族・その国や地域の人々に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない

この3つに照らすと基準に反し、だから放送法にも反する、という組み立て。

ただ、3つのうち国際親善の項目に書かれているのは「その取り扱いに注意する」で、してはいけない、とまでは書かれていません。

この投稿にうなずいた人も、もちろんいました。

実在する国の組織を悪役にした時点で、これまでのテレビの線を越えている、と見る人もいたわけです。

中国の国営メディアがここまで反発している以上、TBSには説明が要る、と考える人がいるのも分かります。

小西議員の投稿より前から、国内の視聴者の中にも、描き方に引っかかっていた人はいました。

拷問の場面があるドラマの曲が、子どもの運動会で流れる。

身近なところで、そんな形で引っかかった人もいたわけです。

ちなみに、小西議員の最初の投稿には「VIVANT」という作品名は入っていません。

入っていたのは「TBS」の名前と、「放送法に反することになります」という法律の言葉での言い切りでした。


一般論と言いながら作品名入り

小西議員の投稿への反発が広がり、「放送終了か」という見出しまで出回った翌10月29日の16時48分、小西議員は最初の投稿を残したまま引用して、こう書き足しています。

「私のコメントは一般論を述べたものでVIVANTが放送法違反と断定している訳では全くありません」

そのうえで、放送法はTBSに自分の番組基準を守ることを義務づけているとして、こう続けています。

「要は、TBSが、VIVANTの他国敵視や残酷表現などの批判に対して番組基準に反しない理由を説明すればいいのです」

読み比べると、引っかかるところが2つ。

1つめは、TBSの説明が、もう前の日に出ていたことです。

「敵視する意思はない」という答えが、番組基準の説明として足りるかどうかは、意見が分かれるところでしょう。

それでも、TBSがまだ何も答えていないかのような書き方には、さすがに違和感が残ります。

2つめは、「一般論」と書いたその投稿の中で、「VIVANTの他国敵視や残酷表現」と作品名を出していることです。

一般論だと言いながら、どの作品のどこを指しているのかは、はっきり書いてある。

これで「断定はしていない」と言われても、読む側としては受け取り方に困りますよね。

同じところで引っかかった人は、かなり多かったみたいですね。

翌10月30日の午後にも、小西議員は最初の投稿を引用したまま、「大切なことは、TBS自らが他国敵視や残酷表現への批判や疑問の声に、それらが放送法に基づくTBS番組基準に違反しないかどうかを具体的に説明することです」と重ねて書き込みました。

最初の投稿を取り下げたわけではなく、社長の「敵視する意思はない」だけでは足りない、もっと具体的に説明せよ、という立場。

 

それとは別に、ネットでいちばん多く見かけるのは「中国の批判に乗っただけでは」という疑いの声です。

本人がどういうつもりで書いたのかは、外からは誰にも分かりません。

はっきりしているのは、投稿が中国の国営メディアの批判から3日後に出ていて、並べた基準の項目に「国際親善」が入っていたことです。

この並びを見れば、疑いの目で見られてしまうのも無理はない気がします。

中国の批判に乗ったのか、という疑いと表裏で、放送が止まれば中国の圧力で日本の番組が消えた前例になってしまう、という心配も広がっていました。


放送を止める権限は政府の側に

では、VIVANTの放送を止めることは、誰にできるのでしょうか。

放送法は、放送局に自分で番組基準を決めて守ることを求めていて(第5条)、守れているかを確かめる場として、局の中に放送番組審議機関を置くよう定めています(第6条)。

ほかに、NHKと民放がつくった第三者機関のBPO(放送倫理・番組向上機構)もあるんですよね。

どちらも番組について意見や勧告を出す場で、放送を止める命令を出すところではありません。

止める命令を出せるのは、法律の上では政府の側で、電波法第76条には、総務大臣が無線局の運用の停止を命じられる規定があります。

2016年2月には、当時の総務相だった高市早苗氏が国会で、政治的に公平でない放送を繰り返した場合には、この規定で電波停止を命じる可能性に触れ、大きな議論になりました。

国会議員は命令を出せる立場ではないので、議員の投稿そのものに、VIVANTの放送を止める力はありません。

 

それでも引っかかるのは、こうした流れに国会で反対し続けてきたのが、ほかならぬ小西議員だからです。

2018年5月1日、小西議員は参議院に出した質問主意書(政府に文書で出す質問)で、2016年に政府が加えた「一つの番組だけでも政治的に公平でないと判断しうる」という考え方を取り上げています。

法律の中身を変える「解釈変更」ではないかと問い、一つの番組だけで政府が放送内容を評価することは、表現の自由を定めた憲法21条に違反しないのかとまで書いていました。

つまり小西議員は、1本の番組を取り出して放送法で測る形に、国会で反対してきた人なんです。

その人が、TBSの名前を出して「放送法に反することになります」と書いた。

これを「一般論」のひと言で片付けてしまって、本当にいいのでしょうか?

同じ投稿を与党の議員がしていたら、小西議員こそ真っ先に「政治の介入だ」と声を上げていたのでは、という指摘です。


本当に止まったのはサンリオのコラボ

放送終了の心配とは裏腹に、実際に止まったのは、最初に触れたサンリオのコラボでした。

10月29日、日本のサンリオは公式サイトで、コラボに「サンリオの企業理念にそぐわない表現が含まれていると判断し、すべての取り組みおよび今後の展開、プロモーション活動を中止することを決定いたしました」と発表しています。

あわせて、心配をかけたことへのおわびと、今後のコラボの確認体制を強めることも書かれていました。

この発表を、言い訳をしない誠実な判断だと受け止めた人も多かったようです。

一方で、中国側の批判から始まった流れで日本の表現が引っ込められた、と心配する声もあります。

サンリオ自身は、中国の批判に応えたとは書いていません。

それでも、中国の国営メディアが批判を出してから4日で、日本のキャラクターとドラマのコラボは、日本でも実際に止まってしまった。

ドラマは、TBSが「完全なフィクション」と答えたうえで放送を続けていて、小西議員自身も「断定している訳では全くありません」と書いています。

11月1日の日曜劇場では、第23話の放送も予定どおり組まれているそうです。

 

ここで、同じ物差しを別の番組に当ててみましょう。

ネットでは、VIVANTがだめなら報道番組の偏りはどうなのか、という声もたくさん上がっていました。

名前がよく挙がっていたのは、同じTBSの日曜朝の番組『サンデーモーニング』です。

ネットでは、その内容に批判の声もよく上がる番組。

もしこの番組に、政治家が「放送法に反することになります」と書いたらどうでしょうか。

2018年の質問主意書を読むかぎり、1つの番組を取り出して放送法で測ることに、小西議員は反対する側でした。

その考え方は、見る人それぞれにとって、嫌いな番組まで守ってしまうからこそ、好きな番組も同じ強さで守ってくれるんです。

VIVANTの放送終了の危機はいまのところ見当たらず、残っているのは「一般論」という言い直しへのモヤモヤ、ということですね。