2026年10月12日、King & Princeの髙橋海人のソロ曲「swim?」のミュージックビデオに「低評価率82%」という数字が付いていると、Xで一気に広まりました。

髙橋海人がソロで名乗る「KAITO」は、20年前からある歌声ソフト(ボーカロイド、略してボカロ)の男性キャラクターと同じ名前です。

ボカロのファンはXで「#KAITO」のハッシュタグを分けてほしいと頼み、髙橋海人のファンの一部から「嫌ならミュートすれば」と返されてきました。

「タグくらいで騒ぎすぎ」とまで言われてきたKAITOのファンの中には、この数字を見て、思わず笑ってしまった人もいるのではないでしょうか。

ただ、YouTubeは2021年から、低評価の数を誰にも見えないようにしています。

「82%」は、ブラウザの拡張機能がはじき出した推計です。

そして低評価を押したと書いている人の言葉には、怒りより「自分の画面にもう流れてこないで」という気持ちがにじんでいます。

低評価率82%と言われた「swim?」

「swim?」は、King & Princeの髙橋海人が「KAITO」の名前で、2026年10月5日に配信を始めたソロの1曲目です。

作詞作曲からジャケットの絵まで本人が手がけた曲で、MVは公開から8日で455万回再生されています(10月13日時点)。

 

ところが、MVの高評価は約9.3万。

そこへ、ブラウザの拡張機能の推計では、低評価が約57万ついていることになっています。

割合にすると低評価が全体の86%ほどで、「82%」と広まった12日から、さらに増えている計算です。

Xのタグの話だったはずが、なぜYouTubeの数字にまで広がったのでしょうか。

「swim?」を作った髙橋海人のプロフィール

名前 髙橋海人(たかはし かいと)

生年月日 1999年4月3日

出身 神奈川県

所属 King & Prince

ソロの名前 KAITO

 

King & Princeは2018年5月にCDデビューし、2023年5月からは永瀬廉と2人で活動しています。

ドラマ「だが、情熱はある」でオードリーの若林正恭を演じるなど俳優としても知られ、自作のキャラクターを描き続ける絵描きの顔も持っています。

「swim?」はSpotifyのプレイリストの表紙にも選ばれ、Billboard JAPANのダウンロード・ソングの集計でも、発売週の首位を走っていると伝えられました。

見えない低評価が数字になる仕組み

YouTubeは2021年11月から、動画の低評価の数を表に出さなくなりました。

数が見えると、それを増やそうとする嫌がらせが起きやすく、とくに小さなチャンネルが狙われていた、というのが当時の説明です。

それでも数字が出回るのは、「Return YouTube Dislike」というブラウザの拡張機能があるから。

この拡張機能は、低評価がまだ見えていた2021年までの記録と、拡張機能を入れている人たちの評価をもとに、動画全体の低評価を推計して表示します。

話題の「82%」も、この拡張機能が出した数字なんです。

 

では当てにならない数字かというと、そう単純でもありません。

推計の元になっているのは、拡張機能を入れている人たちが実際に押した数で、10月13日時点では低評価がおよそ650に対して、高評価はおよそ40。

わざわざ拡張機能を入れるほどネットに慣れた人たちの中では、16対1で低評価が選ばれているわけです。

拡張機能を入れている人が全体を代表しているわけではないので、57万という数そのものには幅があります。

呼びかけなしで積み上がった57万の低評価

ネットの低評価騒ぎといえば、掲示板やSNSで「みんなで押そう」と呼びかける、いわゆる祭りがおなじみでした。

ところが今回は、そうした呼びかけの跡がほとんど見当たらないと、何人もの人が指摘しています。

過去の祭りでは、半日で数十万の低評価がついたこともあったと振り返る人もいて、それに比べると今回の増え方はゆっくりです。

8日かけて少しずつ積み上がったのは、一人ひとりが自分の画面で、ばらばらに押したからだと考えると、つじつまが合います。

 

見た人それぞれの低評価で記録を作った動画なら、2018年にYouTube自身が出した年末の動画「YouTube Rewind 2018」がありますが、あのときの理由は「中身がつまらない」でした。

今回は、中身の好き嫌いとは別の理由で押した人が多いらしいところが、これまでの低評価騒ぎと違うんです。

では、その一人ひとりは何に向けて押したのか。

「見たくない」を伝える低評価ボタン

YouTubeは2021年に低評価の数を隠したときも、ボタンそのものは残し、おすすめの調整に使えると説明していました。

低評価は「この曲が嫌い」だけでなく、「こういう動画はもう出さないで」とYouTubeに伝える合図でもあるんです。

そして、このMVを上げたチャンネルの名前も「KAITO」。

YouTubeで「KAITO」と調べたボカロのファンの画面には、兄さん(ボカロのKAITOの愛称)の曲より先に、このMVが出てくるようになりました。

「嫌いとかじゃなく自衛のため」というひと言に、押した人の多くの気持ちがあらわれている気がします。

KAITOの20年分の曲は、名前も知られていない個人の作り手が上げてきたものがほとんどで、「KAITO」で探してもらえなくなると、新しい曲ほど誰にも見つけてもらえなくなります。

同じ人が「効果無くて」と書いているように、低評価を押しても検索の結果からこのMVが消えるわけではないようです。

それでも押すほかに手がなかった、ということなんですよね。

 

しかもボカロのKAITOの曲は、海の向こうでも大勢に聴かれています。

海外のファンの多くには、日本のアイドルの事情も、Xでのタグの話し合いも、届いていないはずです。

見慣れない動画がボカロのKAITOの名前で出てくれば、迷わず「いらない」の合図を送るのは自然なことでしょう。

 

さらにこのMVは、YouTubeの広告としても流れてきた、という声が多く上がっています。

再生の内訳は公表されていないので「約7割」かどうかは確かめようがありません。

YouTubeには「興味なし」や「チャンネルをおすすめに表示しない」という手もありますが、動画を見ながらワンタップで押せるのは、低評価のボタンなんですよね。

曲名もBTSの「SWIM」とかぶっていた

曲名の「swim?」にも、先客がいました。

BTSは2026年3月20日に「SWIM」という曲を出していて、この曲は2026年のMTV VMAで年間の最優秀楽曲に選ばれています。

今年は「swim」と聞けば、まずBTSの曲を思い浮かべる人が多い年でした。

名前で調べるKAITOのファンと、曲名で調べるBTSのファン。

そのどちらの画面にも、知らない動画が入りこむ形になったわけです。

KAITOで探す人にも、swimで探す人にも、この動画は中身を知ってもらう前に「探していたものではない動画」として目に入ってしまうんです。

「困る方が工夫しろ」が返ってきた

Xでタグを分けてほしいと頼んだボカロのKAITOのファンに、髙橋海人のファンの一部から返ってきたのは、「ルール違反ではない」「嫌ならミュートすれば」という言葉でした。

ひと言にまとめれば、「困る方が工夫しろ」。

しかも公式の告知が「#KAITO」を付ける5時間あまり前、髙橋海人本人はボカロのKAITOを「レジェンド」と呼んでいました。

KAITOタグ汚染問題…髙橋海人の「リスペクト」に納得できない理由
KAITOタグ汚染問題…髙橋海人の「リスペクト」に納得できない理由2026年10月5日の午前0時すぎ、「#KAITO」のタグには、青いマフラーの絵でも新しいボカロ曲でもない投稿が流れこんでいました。 K...

それが今度は、低評価を押された側が「マナー違反」と言い、押した側が「ルール違反ではない」と返しています。

立場がそっくり入れ替わったのを見て、おかしさがこみ上げるのは無理もないと思います。

KAITOは2006年の発売当初はあまり売れず、翌年の初音ミクのヒットのあとに、作り手たちが曲や絵で育て直してきたキャラクターだと言われています。

その発売20周年の年に、同じ名前の新曲が検索のいちばん上に座ったわけですから。

タグの件で悔しい思いを重ねてきた人には、ようやく声が届いたように見えたのかもしれません。

 

しかも押した人の中には、Xでのタグの言い合いを知らない海外のファンも多いとみられています。

示し合わせたわけでもない世界中の人が、それぞれの画面で同じ「見たくない」を押した。

つまり「混ざると困る」は、Xの一部のファンのわがままではなかったということです。

「タグくらいで」と言われ続けてきた人にとって、57万という数字は勝ち負けの点数というより、その困りごとが本物だったことの証拠なんですよね。

 

髙橋海人のファンの中には、静かに高評価をお願いする人もいました。

「評価は個人の自由」と認めたうえで、好きな曲を応援したいという、ごく素直なお願いです。

ただ、Xの告知に「#KAITO」を付けたのも、YouTubeのチャンネルを「KAITO」と名付けたのも、髙橋海人のファンではなく、公式の側。

ボカロのKAITOの発売元のクリプトン・フューチャー・メディアは10月5日に、名前やタグの重なりを完全に防ぐのは難しいとしたうえで、双方のファンに互いを尊重するよう呼びかけるお知らせを出しました。

King & Prince公式やレコード会社からは、12日になってもタグや低評価についての説明はないまま、という声が続いています。

 

低評価が向いているのは、曲そのものより「KAITO」という検索語。

チャンネルの名前がKAITOのままなら、次の新曲もまた、ボカロのKAITOを探す人の画面に出て、同じボタンを押されるおそれがあります。

髙橋海人が所属するSTARTO社の海外向けのアカウントは、配信初日の告知から「#KaitoTakahashi」というフルネームのタグを使っていました。

混ざらない名乗り方は、もう公式の手元にあるんですよね。

それをYouTubeにもそろえるかどうかを決められるのは、ファンではなく公式だけです。

「どちらのKAITOも好き」と歌うボカロP

低評価がふくらんでいた2026年10月11日、ひとりの作り手が、ボカロのKAITOに歌わせた新曲を公開しました。

タイトルは「Swim! / LOL」。

「swim?」の「?」に「!」で応えるようなタイトルで、YouTubeの説明欄に書かれていたのは、「I love both KAITOs.」(どちらのKAITOも好きです)のひと言だけでした。

公開から1日あまりで9.7万回再生され、YouTubeで「KAITO」と調べるといちばん上に出てきた、と驚く人も出ています。

タイトルから挑発を想像して聴いた人ほど、中身の穏やかさに拍子抜けしたようです。

ただ、髙橋海人のファンからの仕返しの低評価が、ボカロのKAITOで曲を作る人たちに向かうのではないか、と心配する声も上がっています。

心配する人が書いていたのは、「個人に対して多数からそれが行われたらいとも容易く心折れるぞ」ということ。

事務所の後ろ盾がない個人の作り手には、代わりに矢面に立ってくれる人がいません。

そんな中で、検索のいちばん上に出たのが「どちらも好き」と歌う1曲だったことに、ほっとしたKAITOのファンもいたのではないでしょうか。