「帰る」「出ない」「一緒に並ばない」「私は大ベテランなのよ」。

映画製作会社のHumanPicturesが、泉ピン子の言葉としてこの4つを並べ、11月2日に東京地方裁判所へ訴えを起こしたと発表しました。

問題になっているのは、映画『養父』『AYUMI』の公開日だった2026年10月23日に、池袋の映画館・新文芸坐で開かれた舞台挨拶です。

声明によると、泉ピン子は登壇をめぐってこうした言葉を口にし、最後には一緒に登壇する人が土下座をするに至ったとのこと(それが誰だったのかは、声明には書かれていません)。

 

この会社の代表は、2本の映画の監督でもある寺西一浩です。

「ピン子さんなら言いそう」と思う一方で、寺西一浩の過去を知る人には、話が少し違って見えたかもしれません。

舞台の上の様子は、動画でも出回っています。

動画を見た人の感想は割れていますが、声明を読むかぎり、土下座まで行ったとされるのは、お客さんの前に出る前の話なんです。


声明が挙げた「ババア」と土下座

HumanPicturesの声明は、4枚の画像に分けて11月3日の未明にXへ投稿されました。

最初に挙げているのは客席への言葉で、チケットを買って応援に来たお客さんに、壇上から「ババア」などと侮辱的な発言をしたことを「到底容認することはできません」と書いています。

次が、冒頭の4つの言葉と土下座で、声明はこれを「相手に強い心理的圧力を与える恫喝とも受け取られかねない」もので、「パワーハラスメントに当たり得る重大な行為」だと受け止めているとのこと。

作品そのものを軽んじるような言動も容認できないとしていますが、こちらは具体的に何を指すのかまでは書かれていません。

声明によれば、会場にいたお客さんやメディア関係者からも抗議が多く寄せられ、その場を見ていた複数の人から、当日の様子を書いた陳述書も届いているといいます。

専門家を交えて話し合った結果、個人どうしの問題では済ませられないと判断した、という流れです。

 

芸能ニュースサイトのENCOUNTは、この画像とは別に会社がメディアへ出した文書も伝えていて、訴えは損害賠償を求めるもの。

その文書によると、会社は泉ピン子の仕事の窓口になっているマネージャーに、「あれは、パワハラです」とLINEで伝えていました。

すると翌24日には、マネージャーから「ほんとに失礼いたしました。申し訳ございません」と謝罪があったそうです。

ただ、11月2日の時点で泉ピン子本人からの謝罪や、発言の撤回はなかったと会社側は説明しています。

泉ピン子の側からも、11月3日の朝の時点でコメントや反論は出ていないと日刊スポーツが伝えているとのこと。


お金を払った客席への「ババア」

ネットには「いつものピン子さん」「通常運転」という声がたくさん並んでいます。

『渡る世間は鬼ばかり』の五月役でおなじみの泉ピン子は、バラエティ番組でも遠慮のない物言いがずっと持ち味でした。

芸能ニュースのWWSチャンネルが公開した舞台挨拶の動画にも、共演者の話にひとつひとつ口をはさんでいく姿が、テンション高く映っています。

テレビの前で何十年も見てきた側からすると、正直「見慣れた光景」に映るところがあるんですよね。

 

それと同じくらい目立つのが、もう今の時代には通らないという声。

共演者とのあいだで話が大きくなったのも、実は今回が初めてではありません。

2019年10月には週刊文春が、『渡る世間は鬼ばかり』で母と息子を演じてきたえなりかずきとのあいだが「共演NG」になっていると報じました。

脚本家の橋田壽賀子が取材に「一緒に出ると、えなり君がおかしくなるんですって、発疹が出たり」と話したと伝えられていて、2人は2015年の回を最後に同じ場面に出ていないとされています。

泉ピン子は2021年10月23日、ニッポン放送のラジオでこの件に触れ、「悪いけど、えなりと私は絡まないのよ」と話したうえで、「誰のおかげで、ああいうガキも本当に」と口にしたことが、デイリースポーツで報じられました。

翌2022年9月には、2人の関係は「雪解けを迎えた」と言われている、というテレビ関係者の話を女性セブンが伝えています。

今回の声明にある「一緒に並ばない」を読んで、この件を思い出した人も多かったようで、ネットにはえなりかずきの名前を挙げる声もちらほら。

向きで言えば、2019年に報じられたのはえなり側が同じ場面を避けたいという話で、その理由も橋田壽賀子の言葉として伝わったもの。

 

一方で、声明が最初に挙げた「ババア」だけは、向いている先が違いました。

テレビの毒舌は、言われる相手も芸能人で、その場で笑いに変えて言い返せることが前提になっています。

ところが今回は、チケットを買って客席に座っていた人に向けられたと声明は書いているんです。

客席の人には、マイクも、言い返す場もありません。

どんな流れで出た言葉なのか、誰に向けてどんな調子で言ったのかは、声明にも報道にも詳しく書かれていないので、ここは裁判で確かめられていくところ。

それでも、応援しに来た人を「ババア」と呼んだのが本当なら、毒舌の芸風という言葉ではかばいにくいと感じてしまいます。


泉ピン子を何度も起用した寺西一浩

ネットでもうひとつ多く見かけたのが、訴えた会社に向けた疑問でした。

実際、泉ピン子をこの1年あまり何度も起用してきたのは、寺西一浩自身です。

2025年9月から放送されたBSフジのドラマ『寺西一浩ミステリー・SPELL〜死因〜』では、霊能者の祖母の役。

主演は、寺西一浩の作品で主役を続けている寺西優真で、泉ピン子とのW主演でした。

2026年7月からの続編『SPELL 第5章ー正しい呪いー』にも同じ役で出ていて、そこへ今回の映画『養父』『AYUMI』が続く形。

泉ピン子は『養父』で、2026年6月にアメリカの独立系映画の賞で最優秀助演女優賞を受けたと報じられていて、寺西一浩の作品は、泉ピン子の名前を看板にしてきたと言っていいと思います。

 

当日も、主演の寺西優真や、『AYUMI』のモデルになった医師の増田あゆみらと並んで、泉ピン子が舞台に立っていました。

その場を仕切って泉ピン子に言い返せる役がいなかったのでは、と指摘する人もいます。

もっとも、起用に失敗したという話と、言った本人の責任の話は別だと返す人もいました。

声明のほうは、起用した側の責任には触れていません。


寺西一浩に残る2008年の騒ぎ

ネットには、訴えた側の名前を見て首をかしげる声もありました。

寺西一浩は1979年生まれの作家で映画監督。

2002年に作家としてデビューし、自分の著書では、24歳で歌手・島倉千代子の所属事務所の社長になったと書いています。

 

名前を覚えている人が多いのは、2008年の騒ぎかもしれません。

J-CASTによると、この年の7月、寺西一浩が日本音楽家協会の会長に就いた直後に、「田中眞紀子の隠し子だ」と周りに話していたと週刊誌が報じ、就任に異論が出ました。

田中眞紀子の側は血のつながりを否定したと伝えられていて、当時の所属事務所は、過去のことにはコメントできないとだけ答えています。

そこへ重なったのが、映画の公開から11日後に、声明つきで大物女優を訴えたという今回の発表です。

ネットには「話題づくりでは」と勘ぐる声も出ています。

とはいえ、18年前の報道や発表の時期から、10月23日の新文芸坐で何があったのかまでは決められません。

声明の最後は「今後は司法の場において、事実関係を明らかにしてまいります」という一文で結ばれていて、会社は自分から、言い分を裁判所で確かめてもらう側に立ったということになります。


動画に映っていない登壇前の時間

結局、どっちの話を信じればいいの?

ここまで来ると、そんなモヤモヤが残りますよね。

ネットで見比べられているのは、主に舞台の上の動画です。

ところが声明を読み直すと、4つの言葉と土下座は、どれも「舞台挨拶への登壇をめぐり」起きたこととして書かれています。

「出ない」「並ばない」という言葉からしても、お客さんの前に出る前の出来事と読めるんです。

 

声明の言葉の選び方も、「恫喝とも受け取られかねない」「パワーハラスメントに当たり得る」と、言い切らない形。

会社は当日の記録や関係者からの聞き取り、陳述書を確かめたと書いていますが、外にいる私たちが見られる材料は、いまのところ訴えた側の声明だけなんです。

ネットの議論は、どうしても動画に映ったツッコミの好き嫌いに寄っていきます。

でも土下座に至ったとされる場面は、カメラが向いていなかった時間の話ということ。

声明どおりなら、それは毒舌の範囲を越えた出来事です。

その場面を泉ピン子の側がどう話すのかを聞くまでは、この話はまだ半分しか見えていないということですね。