学歴をテーマにしたYouTubeチャンネル「wakatte.tv」が、福島大学を取り上げた動画をめぐって謝罪しました。

2026年9月1日のことです。

ここまでは、ニュースでもXでも流れてきた話。

ただ、この件には、報道の見出しにほとんど出てこなかった材料がいくつかあります。

ひとつは、問題になった研究を、福島大学がどんな体制でやっているのかということ。

もうひとつは、大学が出した声明の、いちばん最後に置かれた一行です。

この2つを知ると、今回の騒動が「ひとりの失言」には見えなくなってくる。

何が起きたかは短く畳んで、そこから先をわかりやすく解説していきたいと思います。

重要だと言った直後に出た言葉

まず、起きたことを短く畳んでおきましょう。

2026年8月28日に公開された福島大学のキャンパス調査の回で、学生がおすすめの学びを聞かれ、こう答えたと伝えられています。

「放射能は福島ならではではあるんで」

それを受けた出演者の高田ふーみんが「放射能とか原子力ってエネルギーで超重要な問題」と持ち上げ、そのまま「福島大には触らせたくない」と続けたとのこと。

切り抜きが29日から広がり、31日には動画が一度非公開になったあと、揶揄する意図はないというテロップを足して再公開されています。

削除されたのは、福島大学が学長名で声明を出した9月1日でした。

 

ここで一度、言葉の並びだけを見てみます。

「超重要な問題」と認めた直後に、「触らせたくない」が来ているんですよね。

重要ではないから軽く扱った、という話ではありません。

重要だと認めたうえで、担当から外す

ここが、ふだんの学歴いじりと形の違うところ。

 

ネットでも、同じ線を引いている人が目立ちました。

入試の難しさや偏差値をいじるところまでは、番組の芸として飲み込める。

でも大学の入口の話と、その中でやっている研究の話を、ひとつの物差しでつないでしまった——そこで手が止まった人が多かったわけです。

 

その研究所を動かしている大学名

では、その「触らせたくない」と言われた研究は、どんな場所でやられているのか。

福島大学には、環境放射能研究所という組織があります。

原発事故を受けて2013年7月に立ち上げられたところで、森林や河川、湖、海の中を動いていく放射性物質を追いかけている研究所です。

森の土も、川の水も、事故のあとに何が起きたかを記録しています。

その記録は現地にしかないので、研究する場所を都合で移すことができません

学力の順番で担当を入れ替える、という発想が最初から成り立たない領域なんです。

そして、おもしろいのはここから。

研究所の紹介には、共同で運営している機関の名前が並んでいます。

  • 筑波大学
  • 東京海洋大学
  • 広島大学
  • 長崎大学
  • 福島県立医科大学
  • 量子科学技術研究開発機構

「福島大には触らせたくない」と言われた研究には、もう全国の大学が入っているんです。

 

偏差値の表で言えば、まるで違う行に並んでいる大学どうし。

それが、ひとつの研究所の中で一緒に働いています。

この形は、大学を上から順に並べた表を何度見ても出てきません。

偏差値という物差しは、その大学が何のハブになっているかを1ミリも映さない——今回いちばん大きかったのは、この穴のほうなんです。

 

だから「触らせたくない」が出たのは、悪意というより、持っていた道具にその目盛りがなかったから。

目盛りのない物差しを当てると、そこには何もないように見えます。

広島大に置き換えると見える線

この穴は、福島大学だけの話で終わりません。

炎上のさなか、番組をよく見ている人が、こんな置き換えを書いていました。

この人は続けて「広島大学の学生には平和問題を考えてほしくない」と置き換え、そこで自分から手を止めています。

並べた瞬間に、輪郭がはっきりしますよね。

しかもその広島大学は、さっきの研究所を一緒に動かしている6つのうちのひとつです。

 

地方の国立大学は、たいていその土地の課題を背負っています。

福島は原発事故、広島と長崎は被爆、神戸は震災。

どれも、大学の格とは別の理由でそこにあるものです。

だとすると、偏差値という一本の物差しで全国の大学を回るかぎり、いつかどこかで必ずここに当たる

今回のことは、たまたま起きた事故というより、順番が回ってきただけ。

 

この落差をまっすぐ言葉にした投稿が、大きく伸びています。

大学院まで進んで研究している人を、入学時の学力の順番では語れない——読んでいて、たしかに、と思わされました。

 

配慮不足で片づけると次がある

謝罪文のほうも見ておきましょう。

本文では「福島大学で原子力を学ぶ意義や経緯、そして日々研究に取り組む学生の皆様の志に対する配慮が決定的に不足していた」と書かれています。

踏み込んだ言葉ですし、動画の削除まで自分で書き込んだ形。

 

ただ、ここで止まると、今回の話は「気をつけ方が足りませんでした」で終わってしまいます

足りなかったのは配慮なのか、それとも物差しのほうなのか。

配慮の問題にすると、次に琉球大学へ行っても、神戸大学へ行っても、同じ形の言葉がまた出ます。

気をつけるだけでは、目盛りは増えないので。

 

逆に言えば、直し方のほうもはっきりしています。

番組の側にできるのは、行く前にその大学が何のハブになっているかを一度だけ調べておくことです。

偏差値の表の外側に、たいてい一行あります。

 

声明の最後に書かれていた一行

最後は、福島大学の声明そのもの。

学長名で出された文書は、思ったより短いものでした。

そして、そのほとんどが抗議ではなく、研究の中身の説明に使われています。

震災と原発事故のあと、地域や国内外の研究機関と連携してきた15年。

原子力災害や環境放射能の研究は、福島の経験を科学的に検証して、その成果を国内外へ返していくためのものであること。

怒るより先に、何をやっているのかを説明しているんですよね。

知られていない、という前提から書かれた文章です。

 

そのうえで、譲れない線が一行だけ引かれています。

「尊厳を傷つけられることがあってはならない」

 

そして、報道の見出しにはほとんど出てこなかった一文が、いちばん最後に置かれていました。

特定の個人に対する誹謗中傷や不適切な言動を行うことのないよう、併せてお願いいたします

侮辱された側が、最後に書き足したのがこれ。

怒りが自分たちの手を離れて走り出すところまで見たうえで、そこに手を置いています。

 

大学を偏差値で並べる遊びが、全部だめだとは思いません。

引っかかったのは、その表に載っていない列まで、同じ数字で並べ替えようとしたところ。

福島大学が研究の中身から書き始めたのは、たぶんそこを見てほしかったからなんですよね。