2026年11月6日、関西テレビの夕方のニュースで、大阪府内で小学1年生の7歳の子まで補導されていたことが伝えられました。

交番の前で「ショウリンジじゃー!」と叫んで走り去る、「少林寺レーシング」と呼ばれる迷惑行為です。

大阪府警によると、9月中旬から10月末までに認知した関連の事案は約280件、検挙・補導された少年は7歳から16歳までの約50人にのぼるとのこと。

10月下旬に報じられた時点では43人だったので、そこからひと月足らずでさらに増えていることになります。

7歳と聞いて、ネットでまず上がったのは「親の顔が見たい」「ちゃんと叱られたことがないんだろう」という声でした。

7歳で交番に向かうなんて、家では誰も止めなかったのか、と思ってしまいますよね。

ただ、報道を一つずつたどっていくと、子どもたちを交番の前まで連れていったものは、SNSで出回っている動画だけではありませんでした。


爆竹が投げ込まれた交番

交番で叫んで逃げる、と聞くと子どもの悪ふざけのようですが、関西テレビの取材で紹介されていた動画は、たとえばこんな中身。

  • 交番に入ろうとした少年たちが、突然「ショウリンジじゃー!」と叫ぶ
  • 「落とし物なんですけど」と交番を訪れ、警察官が「落とし物ありがとうございます」と応じた直後に叫ぶ
  • 公衆電話で110番を押し、同じ言葉を叫ぶ

いつ誰が始めたのか、武術で有名な中国のお寺の「少林寺」と関係があるのかも、まだ分かっていないそうです。

正体の分からない言葉を叫んで逃げるだけなら、昔のピンポンダッシュの延長に見えるかもしれません。

ところが、報じられている中身は、もうその範囲の外。

大阪や兵庫では9月以降、叫びながら110番通報をしたり、交番に爆竹を投げ込んだりする行為が相次いでいたと、読売テレビが伝えています。

交番のガラス戸が壊されたケースまで報じられているほど。

11月4日の夜には、大阪市内の交番でも、警察官が休憩していたところへ中学生など4人がやってきて、スライドドアを開け閉めしながら叫んで逃げたとのこと。

3人は補導されましたが、1人はいまも逃げているそうです。

 

広がりは大阪の外にも及んでいて、兵庫・富山・広島でも、小学生を含む子どもたちが検挙・補導されたと報じられています。

警察の調べに対して、少年たちは「学校の友達を笑わすためにやった」「SNSで動画を見て、警察官をおちょくるのが面白そうだと思った」と話しているそうです。

友達を笑わせるための一本の電話でも、警察がその電話に手を取られているあいだに、本当に助けを待っている人がいるかもしれない、という重さがあります。


7歳の補導に「親の顔が見たい」

小学1年生が交番の前で叫んでいたと聞けば、「家では何を教えているのか」と言いたくなりますよね。

ニュースのコメント欄でいちばん多くの共感を集めていたのも、「間違ったことをしても叱れない教育の末路だな」という書き込みでした。

同じ書き込みには、子どもは捕まっても「せいぜい注意だけというのを分かってる」という一文もあります。

この「注意だけ」は、気のせいではないんです。

刑法41条には「十四歳に満たない者の行為は、罰しない」と書かれていて、14歳未満の子は、刑罰の対象になりません。

法に触れることをした14歳未満の子は、児童相談所に通告されるなど、罰ではなく指導や保護の手続きに回るので、外から見ると「注意だけで帰された」ように映ってしまうわけです。

 

一方で、14歳を過ぎると話は別でして。

関西テレビの番組に出演した西脇亨輔弁護士は、「交番に行って迷惑をかけたら、公務執行妨害となって、3年以下の拘禁刑という立派な犯罪になります」と話しています。

大阪府警の担当者も「逮捕に至った少年もおります」と明かしていて、「子どもの悪ふざけ」という言葉で包める年齢には、はっきりした線が引かれているということ。

それにしても、罰のない年齢の小学生までが、交番の前まで足を運んだのはなぜなのか。

たどっていくと、「少林寺レーシング」を名乗っていた、18歳の男のアカウントに行き当たります。


ステッカーで呼びかけた「本家」

11月2日、大阪府警は偽計業務妨害の疑いで、住居・職業不詳の18歳の男を逮捕しました。

読売テレビによると、男は10月、バイクでの暴走など、実際にはやる予定のない迷惑行為を予告する投稿をSNSにして、警察官に警戒の対応をさせた疑いが持たれているとのこと。

男は別の事件で10月に逮捕されていて、そのときの携帯電話を調べたところ、「少林寺レーシング」を名乗るアカウントを使っていたことが分かったそうです。

調べに対しては「事実ではありません」と否認していて、一連の迷惑行為との関係は、警察がまだ調べている最中。

 

報じられているアカウントの中身は、こうです。

  • 「少林寺レーシング」の投稿に使っていたアカウントは少なくとも4つ
  • いちばん多いもので、フォロワーは約1万4000人
  • プロフィールには「本家です」「大阪府警公認」
  • 交番での迷惑行為の動画も投稿

さらに神戸新聞が伝えたのは、迷惑行為の内容に応じてステッカーをプレゼントする、という投稿もしていたという点でした。

府警は、こうした投稿が一連の行為をあおっていたとみて調べています。

「叱られないから、子どもが調子に乗る」という見方は、きっと当たっているのでしょう。

ただ、叱られないから続く、のもっと手前に、やればやるほどほめてもらえる仕組みが先にSNSの上に置かれていた、というのが報道から見える形なんです。

内容に応じてごほうびが変わるなら、目立つことをした子ほど得をすることになってしまう。

新潟青陵大学大学院の碓井真史教授も、昔は警察の前で変なことをしても「それを喜んで拍手してくれるのは、その場にいる何人かだけ」だったのが、SNSで大勢に見てもらえるようになったと指摘しています。

子どもたちの気持ちを言い表した教授の言葉は、「みんながやってる流行に、僕は先端を歩いている。なかなかの快感」。

ただ、拍手が届くのは画面の中だけで、交番の前で補導されるのは、子どもたち本人です。

強い言い方ですが、補導された中に小学校の低学年の子までいる、という事実のほうは動きません。


上級生から回ってくる誘い

では、1万4000人のフォロワーがいるアカウントの動画を、小学1年生が自分で探しにいったのでしょうか。

関西テレビの取材班は、この遊びに誘われたことがあるという大阪府内の8歳の小学3年生にも話を聞いています。

その子の口から出てきたのは、こんな学校の様子でした。

「(小学)4年生のクラスが一番流行している。男子ほとんどが、学校終わったら帰りに自転車で警察署に行って、『少林寺なめんなよ』と言ってから、白バイのナンバーを折って逃げる」

 

8歳の子の話なので、どこまでが本当に起きたことかは分かりません。

それでも、この子が上級生から「少林寺行くから来る?」と誘われたことがあると話しているのは、子どもを持つ人にはいちばんぞっとするところですよね。

7歳の子がどこでこの遊びを知ったのかは報じられていませんが、少なくともこの子のまわりでは、入り口はスマホの画面だけでなく、放課後の帰り道の上級生にもあったように見えます。

 

誘われた子の母親も、取材に不安を口にしていました。

「面白そうとなって、集団でいたら怖くないみたいな感じで行って、子供たちからしたら怖さを分かってない」

お母さんの言うとおり、ひとりなら足がすくむ交番の前も、みんなと一緒なら行けてしまうのかもしれません。

この投稿は10月11日のもので、その男の子のまわりでは、もう「テレビに出たから終わり」という言い方まで出ていたようです。

それでも11月4日には大阪市内の交番で同じことが起きていて、子どもの側で「もう終わり」と言われていた遊びが、まだ交番の前で続いている、というのがこの遊びの止まりにくさかもしれません。


家で先に言われていた「あかんで」

結局は、家で何を言われて育ったかじゃないか、と言いたくなりますよね。

その感覚には、今回の報道の中にも、ちゃんと裏づけがあるんです。

上級生に誘われた小学3年生は、その誘いを断っていました。

理由を聞かれたその子の答えが、こちら。

「『少林寺行くから来る?』と言われて、行きたくないなと思って、ちょっと怖かった。お姉ちゃんに『あかんで』と言われているから、『きょうはやめとくわ』と言った」

この子は交番の前に行くことを怖いと感じていて、そのうえ家で「あかんで」と言われていたんです。

だからこそ、上級生を前にしても「きょうはやめとくわ」と、その場で断る言葉が出てきたのかもしれません。

取材に「ネットが怖い」と不安を話していたのも、この子のお母さんでした。

 

ステッカーで呼びかける年上のアカウントがある一方で、先に「あかんで」と言ってくれる家族もいる。

逮捕された18歳の男は否認していて、あのアカウントの投稿が子どもたちにどこまで届いていたのかは、これからの捜査で分かっていくことです。

ただ、「親の顔が見たい」と言われるこの騒ぎで、交番の前へ行かなかった子の家には、先に「あかんで」と言う人がいたということですね。