夕方、少し離れた子ども食堂へ子どもを連れていくなら、自転車の後ろに乗せていこうと考える人は多いと思います。

ところがその自転車が、「出禁」の理由になった子ども食堂があるんです。

2026年10月22日、やす子が東京都葛飾区で開いている子ども食堂「やすまったり」の公式Xが、こう投稿しました。

翌23日には「自転車で来ている人がいないかスタッフが巡回するようにします」「見つけ次第、帰宅していただきます」と、その日のうちに帰ってもらう対応まで加わり、ネットでは「当たり前」という声と「さすがに厳しすぎる」という声が並んでいます。

無料でご飯を出している場所が、なぜ来た人を帰すところまで言わなければならなかったのか。

賛否それぞれの中身と、ニュースだけでは見えにくい子ども食堂の難しさを、わかりやすく解説していきます。


出禁の20日前に出ていたお願い

「出禁」という言葉だけを見ると、ずいぶん強く突き放したように聞こえますよね。

実はその20日前、10月2日にも、やすまったりは【お願い】という題で別のルールを投稿していました。

お断りの相手は「ご利用のお子さまや保護者以外の方」、つまり写真を撮るために訪れる人たちです。

理由として挙げられているのは、店の前の歩道が狭く近隣の迷惑になることと、子どもたちとの時間を守りたいことの2つ。

公式サイトの注意事項にも、はじめから「専用の駐車場・駐輪場がございません」と書かれています。

今回の投稿がわざわざ「知っているのに」と書いているのは、こうした注意を前から出していたからでしょう。

 

ネットでは「ブチギレ」「容赦なき」といった強い言葉を添えて紹介する投稿も出ましたが、公式の文面そのものは、かなり丁寧な言葉づかいです。

10月23日には「まだまだルールもできつつで、ご迷惑をおかけすることも多いですが、皆様にとって寄りやすい場所になるよう頑張ってまいります」という投稿も出ていて、こちらはむしろ低姿勢でした。

強く叱っているというより、謝りながら線を引いている、という印象に近いかもしれません。

出禁の2文字が出てきたのは、こうしたお願いを重ねたあとのことです。


「自転車くらい」の声と行けなくなる家

まいどなニュースが伝えた投稿へのコメントを見ると、「みんながルールを守らないとですね」「この対応は大賛成です」「当たり前」と、支持する声が目立っています。

一方で、「出禁は、さすがに厳しすぎる気が」「自転車禁止はキツくない?」という声もありました。

ネットには「撮影はわかるけどチャリンコ禁止は意味わからん」という書き込みや、停める場所を用意すればいいのでは、という声もあって、引っかかっている人は自転車のところで止まっているようです。

実際、自転車がないと子ども食堂へ行けない家もあります。

やすまったりとは別の地域ですが、2024年2月に子ども食堂の行き帰りについて書かれた、こんな投稿がありました。

家が遠い子にとって、自転車禁止は「行けない」とほとんど同じ意味になってしまいます。

 

ただ、やすまったりは、歩いて来られる近所の子を思い浮かべながらルールを作っている印象です。

少なくとも10月31日のお菓子の配布は、対象が「近所の18歳以下の子供達」と書かれていて、同じ告知の中で自転車も車も禁止とされていました。

では、少し遠い家の子はどうすればいいのか。

全国こども食堂支援センター・むすびえの2025年度の調査(速報値)では、全国の子ども食堂は1万2,601カ所まで増えましたが、子ども食堂が1つ以上ある小学校区は、全体の4割ほどにとどまっています。

全国で見ると、歩いて行ける範囲に子ども食堂がない子が、まだ多いんですね。

自転車がないと届かない家の不便は、1軒の店のルールだけで生まれているわけではありません。


駐輪場のない店に80人が来る日

やすまったりの投稿を読み返すと、10月2日のお願いも22日の出禁も、理由の中に同じ言葉が入っています。

どちらも「近隣の方」なんです。

10月22日は、ふだんの子ども食堂に加えて、食べ物や飲み物を家庭に手渡す「フードパントリー」も開かれた日で、パントリーはこの日、それまでの予約制から「予約いりません。17時から19時の間にお越しください」という形に切り替えて開かれました。

出禁の投稿に付いている時刻は18時すぎで、誰の自転車だったのかまでは書かれていませんが、ちょうど配布の真っ最中だったことになります。

 

翌日、公式Xにはこんな投稿もありました。

駐輪場のない店の前に、2時間のあいだで80人以上がやって来る。

そのうち何人かでも自転車で来て近くに停めれば、狭い歩道はすぐにふさがりかねません。

しかも同じ23日には、パントリーは今後も予約制をやめて「その時にあるものをお渡しいたします」という形にすると発表されました。

予約がなくなれば、何人来るのかは当日まで誰にも読めず、来る人の数を前もって絞れない日に、店が先に決めておけるのはルールくらいです。

 

学校が校門の前での車の送り迎えを控えるよう呼びかけるのも、同じ理由から。

門の前に車が並べば、迷惑をこうむるのは、その道を毎日使っている近所の人なんですよね。

子ども食堂も同じで、そこを開けておけるかどうかは、食べに来る子どもだけでは決まりません。

店の前を毎日通る近所の人に受け入れてもらえていることが、子ども食堂を続けるための土台になっています。

出禁という言葉は、利用者を締め出すためというより、近所の人に「この店は迷惑を放っておきません」と示すための言葉だった、と読むと、2回とも「近隣の方」が理由に挙がっていることとも、ぴったり合う。


出禁は利用者の家への罰ではない

今回の件では、ネットに「子ども食堂に来るような子供の親がちゃんとルールを子供に教えてるか」「自転車を持ってる家庭はある程度食には困ってないんでは」という声も出ていました。

ルールを守らない人がいたと聞けば、そう言いたくなる気持ちもわからなくはありません。

ただ、今回「知っているのに」自転車を停めたのが誰なのかは、公表されていないんです。

利用している家庭の人なのか、写真を撮りに来た人と同じように店の外から来た人なのかは、分からないまま。

おかしいのは〈禁止と知りながら近くに停めた〉という行為で、子ども食堂を使っている家庭まで一緒に責める話ではありません。

 

それでもこういう声が出てしまうのは、子ども食堂には「貧しい家の子が行くところ」というイメージが、まだ強く残っているからではないでしょうか。

むすびえは、子ども食堂を「子どもが一人でも安心して行ける無料または低額の食堂」と説明していて、子どもを中心に幅広い世代が食を通じて交流する「みんなの居場所」になっている、としています。

所得で利用を区切るという話は、その説明には出てきません。

やすまったりの公式サイトも、目指すものとして「地域の誰もがつながり、支え合えるまち」を掲げています。

入口で「困っている家の子ですか」と聞かない場所なので、線を引けるのは、来たあとのふるまいだけ。

 

そのふるまいについては、やすまったりに限らず、子ども食堂を開いている側にも言いたいことがたまっています。

10月、仙台で毎日子ども食堂をしているラーメン店が「『ごちそうさま』くらい言え」と書いた投稿は大きく広がり、その下にはこんな返信が付いていました。

言わないのではなく、言う場面を見たことがなかったという子もいる、という声です。

ルールやあいさつに初めて出会う場所として子ども食堂がある、という見方もできそうですね。


やす子が運営するから起きること

やすまったりは、かかったお金を公開している子ども食堂でもあります。

報道によると、9月は180食を無償で出して、かかった費用は約26万300円だったそうです。

10月4日には、そのうち光熱費が2万円だったことも追って報告されていました。

むすびえの調査では、物価上昇の影響を感じている子ども食堂は約85%にのぼっていて、お金の苦しさは多くの子ども食堂が抱えている悩みです。

 

そのうえでやすまったりには、ふつうの子ども食堂にはない種類の困りごとが重なっています。

ひとつは、写真を撮るために訪れる人が出てしまうこと。

もうひとつは、届いた寄付の品を公式Xで紹介するときに、一部を「やす子の契約により載せられない」と断らなければならないことで、どちらも運営しているのが有名人だからこそ起きています。

人を集められる名前は、食べに来る子と一緒に、食事が目的ではない人まで店の前へ連れてきてしまう。

ルールを一つずつXで言葉にしているのも、その表れに見えます。

 

「出禁は厳しすぎる」と感じた人の引っかかりも、自転車がないと行けない家がある以上、ちゃんと理由のある話です。

それでも、2回とも「近隣の方」を理由に挙げてお願いを重ねたあとで、知っているのに停める人がいたのなら、出禁を言い出したやすまったりを冷たいとは言えないと感じてしまいます。

厳しく聞こえる「出禁」の2文字が守ろうとしているのは、この店が来週も同じ場所で開いていること、なんですよね。