天気予報を見ようとスマホを開いたら、画面の下から広告がせり上がってきて、指が勝手に小さな×を探しはじめる。

ニュースの続きを読もうとしたら、今度は画面ぜんぶが広告になって、閉じるボタンがどこにも見当たらない。

そんな毎日の×探しを、そのまま遊べるゲームにしてしまった人がいます。

2026年11月8日の夕方に公開された「世界で一番広告が多いゲーム」です。

床も壁も背景も、ぜんぶ本物の広告。

ふだんスマホでニュースを読んでいる人ほど、どこかで見た画面ばかりで吹き出してしまうはずです。

広告が消せなくて記事を読むのをやめた、という声は、このゲームが出るずっと前からネットに上がっていました。

そのうっぷんを丸ごと笑いに変えたゲームですが、攻略のページには、ふだんの広告ではまず見かけない約束が書かれていたんです。


世界で一番広告が多いゲームの中身

作ったのは、これまでにもロールアイスやかき氷を作って遊べるブラウザゲームを公開してきた、Xで「すのはら」と名乗る作り手。

サイトの運営は「株式会社こす.くま」で、すのはらのプロフィールにも同じ社名が載っています。

主人公は、その会社のキャラクターのこすくまくん。

左右に動いてジャンプしながらゴールを目指す横スクロールのアクションで、そのゴールが「記事を読む」のボタンのような箱になっているところに、もう小さな皮肉が効いていますね。

 

サイトの上には、ゲームに使われている広告の数が「いま入っている本物の広告」として出ていて、11月9日の時点で2万本を超えていました。

やられたあとに自分で画面を押して続けると、ぶつかった広告の会社の公式サイトが新しいタブで開く仕組み。

しかもタイトル画面には「広告を消す500円」のボタンまであって、スマホゲームでおなじみの「広告を消したいなら課金」まで、実際に買い切りで買える形で再現されていました。

難しさもかなりのものらしく、遊んだ人からはこんな声も出ています。

どうやら、ゲームの中に入っても、広告はやっぱり人の休日を溶かしていくようで。


×探しから始まる8つのステージ

このゲームがよくできているのは、ステージの名前を見ただけで、どんな目にあうのか想像がつくところです。

公式のステージ一覧には、この8つが並んでいます。

  1. 小さい広告
  2. トップページ
  3. 天気予報
  4. 無料会員登録
  5. 記事を読みたいだけなのに
  6. 動画サイト
  7. 最後の広告
  8. 本当に最後の広告

「最後の広告」のあとに「本当に最後の広告」が控えている並びが、もう現実のスマホそのものですよね。

なかでも、ふだんの画面がそのまま出てくるのがこの3つです。

天気予報

3つ目のステージを、公式は「天気を見たいだけのページ」と説明しています。

背の高い広告が道をふさいでいて、小さな×で閉じながら進む作りだそうです。

傘を持っていくかどうかを知りたいだけの朝に、縦長の広告をよけて気温の数字までたどり着く、あの数秒。

まさに、あれがまるごと1ステージになっています。

 

記事を読みたいだけなのに

5つ目は、スマホで記事を読むページで、続きを読もうとするたびに広告が邪魔をしてくるステージです。

ネットでは少し前に、閉じるボタンの場所を広告が自分から教えてくれる画面まで話題になっていました。

閉じる場所まで広告に教わる時代、ここまで来ると親切なのかどうかも分かりません。

 

最後の広告

7つ目の「最後の広告」は、スマホのゲームの合間によく出てくる広告がテーマのステージ。

ゲームをしていたはずが、気づけば別のゲームの広告と、閉じるボタンが出るまでにらめっこしている。

そして8つ目の「本当に最後の広告」では、それまでに出てきた広告がもう一度まとめて登場するとのこと。


閉じる×に見せかけた広告

それにしても、ネットの広告はどうしてこんなに押しつけがましくなったのでしょうか。

そもそも、ネットの広告には、表示された回数だけでなく、押された回数で料金が決まるものもあります。

そうなると、わざと押した1回も、指が当たっただけの1回も、数のうえでは同じ1回になりかねません。

 

評論家の荻上チキは2026年7月、閉じるための×だと思わせるマークを広告の画像に描いておく手口を、「ダークパターンの一種」と呼んでいました。

ダークパターンというのは、見た目でうっかり選ばせるように作られた画面の仕掛けのこと。

編集者の箕輪厚介も、2026年7月に「間違ってタップしてしまうことによってメディアが儲かる仕組み」とXに書いていました。

 

もっとも、まったくの野放しというわけでもありません。

Googleは2018年から、迷惑な広告をやめないサイトでは、Chromeでの広告をまとめて止めています。

2022年9月からはアプリの売り場のGoogle Playでも、15秒たっても閉じられない全画面の広告を認めないルールを設けました。

決まりはあるのに、減った実感はない。

このゲームの画面がこんなに身に覚えのあるものに見えるのも、たぶんそのせいです。


広告だらけのゲームが守っている約束

攻略のページには、プレイヤーへの約束のような1行がありました。

「広告の文字はうそをつきますが、動く前に出る印はいつも本当です。」

このゲームの広告は飛んだり、隠れたり、落ちてきたりしますが、動く直前には必ず合図が出る、ということのようです。

広告の文字がどれだけうそをついても、ゲームの決まりは絶対にうそをつかないと言い切っているんですね。

 

それに同じページには、「大きく目立つボタンよりも、小さくて地味な×の方が本物のことが多いです」というコツまで載っています。

こちらはもう、ゲームの外のスマホでもそのまま使える心得ですね。

外の世界では、このコツを知っていても、本物の×にたどり着くまでが勝負です。

 

運営者情報のページを読むと、約束はまだ続いていました。

  • 広告のサイトが開くのは、やられたあとに自分で画面を押して続けたときだけ
  • 同じ端末で同じ会社のサイトが開くのは、24時間に1回まで
  • 紹介のリンクは通していないので、運営者に紹介料は入らない

ふだんの広告は、勝手に開いて、何度も開いて、押されるほどお金になる。

うんざりしてきたことのちょうど逆が、広告だらけのゲームの側で守られているわけです。

世界で一番広告が多いゲームは、世界で一番広告に正直なゲームでもありました。


「元々、満足していた」のこすくまくん

主人公のこすくまくんの漫画を毎日のように載せているアカウント「こすくま」は、ゲームの告知を引用して「広告の効果」という漫画を出しています。

ごはんを前にしたこすくまくんの横に、「元々、満足していた。」の一言。

次のコマでは、「そのごはん、おかずなしで平気?」「みんなもう持ってます」と書かれた看板に囲まれて、「何も減ってない。なのに、足りないものを増やされる。」と続きます。

 

天気を見たいだけ、記事を読みたいだけ、ごはんを食べたいだけ。

ゲームのステージも漫画のこすくまくんも、もう足りていた人のところに広告が割り込んでくる話なんです。

ネットでは、広告の効き目そのものを疑う声も上がっていました。

×を探させられた人の手元に、商品の名前はたぶん残っていません。

読みたいだけの人の邪魔をしないという当たり前を、広告だらけのゲームのほうが先に守っていたということですね。