祝日の朝、まだ暗いうちからコンビニの前に並んで、7時になったら推しのくじを引く。

子どもに頼まれて早起きした親も、仕事の前に寄った人も、その日を楽しみにしていたはずです。

ところが2026年11月3日の朝、何十分も並んだのに、自分の番の直前で「売り切れです」と言われた人が、あちこちの店にいました。

この日ローソンやHMV(ローソングループの店)で発売されたのは、2025年の紅白歌合戦にも出た5人組M!LK(ミルク)の「M!LKくじ」で、1回790円です。

朝のうちに売り切れた店が相次いだ一方で、その日のうちに、フリマアプリには景品が何倍もの値段で並び始めています。

この朝、4歳の子に「ごめんね」と謝ったのは、くじを作った側でも、高値で売る側でもなく、レジに立っていた店員さんでした。

欲しいファンの手に届かなかったのは、転売の人に買われたせいだけなのか。

並んだ人たちが当日に書き残した声から、あの朝に何があったのかをたどってみます。


1つの店に1個だけの推しのクッション

早起きして並んだのに買えなかった、という悔しさは、並ぶのが遅かったせいとは限りません。

店頭に貼られる景品の一覧表を数えた人によると、1つの店に入っているくじは全部で65本とのこと。

いちばん人気のA賞「ふわふわクッション」は、65本のうち5本で、5人のメンバーに1個ずつ。

自分の推しのクッションは、1つの店に1個しか入っていなかったわけです。

多くの店では「1人5回まで」と案内されていたようで、そうなると65本は13人目で売り切れ。

最後の1本を引いた人にはおまけの「ラストワン賞」が付くのですが、ネットには「13番目でラストワンになるみたいで私たちは14番」と書いていた人も。

数えたとおりにいかないこともあって、この人には最後の最後でラストワンが回ってきたそうですが、会計を済ませたところで店員さんが「売り切れましたー!」と叫び、後ろの列はそのまま解散していったと書いています。

「せめてもう少し早く並んでいれば」と自分を責めた人もいるかもしれませんが、そもそも1つの店で引けるのは十数人だけでした。

 

「並ばないで」と言われ「並べばいい」と言われた

数が少ないなら、せめて決まりは同じであってほしいところですよね。

ところが当日の朝は、その決まりが店ごとに、ときには同じ店の中でもばらばらでした。

店の言うことを守って車で待っていた人が、守らなかった人に順番を取られる。

これでは、言われたとおりにした人ほど損をする形になってしまいます。

横入りを止めてくれるかどうかも、店によって違っていました。

並んでいた子の番に、一緒に並んでいなかった親が加わって、残りの9枚を全部買っていった、という話です。

この投稿には「私が行った店舗は店員さんがみててくれてそれ禁止してました」という返信が付いています。

ところが投稿した本人の店では、店員さんが止めるどころか、むしろ勧めていたそうです。

 

とはいえ、店の側にも事情はあるんですよね。

発売が7時から遅れた店では、待つ客の車で駐車場が埋まり、「謝罪し続ける店員さんが可愛そう」と書いた人もいました。

祝日の早朝、レジを打ちながら行列の面倒まで見るわけですから、対応がそろわないのも無理はありません。

同じ日の同じくじなのに、並んでいいか、横入りを止めてもらえるかは、店に着いてみるまで分からなかったんです。


発売前からフリマに出ていた?

いちばん納得がいかないのは、たぶんこちらではないでしょうか。

この投稿が出たのは11月3日の朝5時40分ごろで、7時の発売より前です。

その出品が本物の景品だったのか、まだ手元にない品を先に出しただけなのかは、外からは分かりません。

ただメルカリのヘルプでは、手元にない商品の出品や、発売前の商品を予約で売ることは禁止とされています。

 

ローソンの側にも、店に守ってもらう決まりはあるんです。

2026年7月、セブン-イレブンで店の関係者による人気グッズの買い占めや転売が発覚し、J-CASTニュースがほかのコンビニにも販売の決まりを取材しています。

そのときローソン広報部は、くじなどの商品を店に案内するときに、次の決まりを伝えていると答えていました。

  • 「発売日前の販売禁止」
  • 「ロット販売の禁止」
  • 「予約販売の禁止」

あわせて、「お一人様当たりの購入回数制限を設けるなど、商品ごとに本部推奨の販売ルールを設定しています」とも説明しています。

ここで引っかかるのは、「推奨」という言葉です。

本部は決まりを勧め、実際にどうするかを決めるのはそれぞれの店で、その場で揉めごとを受け止めるのは店員さんと、並んだ人たち。

転売を止める線は、本部から店へ、店から列の中へと、下りてくるほど細くなっていたということです。

同じ取材でローソンは、売ったあとの品について「個別の取引や流通を一律に把握・制御することは困難」とも話していました。

 

推しを選べないくじと交換の輪

転売はおかしい、と言いたい気持ちはもちろんあります。

ただ、このくじには、推しのファンほど苦しくなる作りがもう1つありました。

A賞からC賞までは、どのメンバーのものが出るかを選べない形だったそうです。

やっと引けても、出てきたのは推しではないメンバーのクッション、ということが普通に起きます。

だから当日のうちに、出た景品を交換に出すと書いているファンもいました。

推しが出なかった人と、その推しを持っている人がつながる交換は、ファンどうしの昔からの助け合いです。

 

ところが同じ「推しを選べない」が、フリマアプリにも人を向かわせます。

11月3日の夕方の時点で、A賞のクッションはメンバーの名前つきで、1回790円のくじの2倍から8倍ほどの値段で出品されていました。

くじでは選べない推しを、フリマなら名前で探せてしまう。

その「名前で探したい」気持ちがある限り、まとめて引いて売る人は出てきてしまうのでしょう。

転売する人を責めるだけでは、1店に1個しかない推しを、選べない形で引かせる作りが話から消えてしまいます。

なお、くじの再販や追加の販売の案内は、11月3日の時点では見当たりませんでした。


ラストワン賞を譲った人たち

そんな朝にも、悲しい話ばかりが残ったわけではありません。

別の店では、売り切れる直前に前の人が順番を分けてくれて、「前の方が超優しくて私も一回だけ出来ました」とネットに書いた人もいます。

その1回が最後の1本で、付いてきたラストワン賞は、分けてくれたその人へ渡したそうです。

列の中で公平を守っていたのは、決まりではなく、譲った人たちの気づかいでした。

レジで子どもに声をかけた店員さんも、その輪の一人です。

4歳の子が「ごめんね」で帰る朝を、店員さんの優しさだけで受け止めているのは、やっぱりおかしいですよね。