「誰かを楽しませたい、笑ってもらいたい」

2026年10月25日の夕方、元ジャングルポケットの斉藤慎二が、新しく立ち上げたYouTubeチャンネル「斉藤慎二と申します。」の概要欄に、こう書きました。

2024年7月、番組ロケのバスの中で初対面の共演者の女性に性的暴行を加えたとして、不同意性交と不同意わいせつの罪に問われている被告です。

判決の言い渡しは11月16日で、チャンネルが始まったのはその22日前でした。

「このタイミングで?」と、まず思いますよね。

被害を訴えている女性がいる裁判で、その判決を待っているさなかなら、なおさらです。

ただ、この件で引っかかるのは、日付の近さだけではありません。

裁判の記録をさかのぼると、「芸能活動を続ける」という言葉が、すでに一度法廷で出てきているんです。


判決を待つ時期に出た『今の心境』

動画のタイトルは「元ジャンポケ斉藤慎二が今の心境を語ります。」で、長さはおよそ27分あります。

前半は、夜の公園に腰を下ろした斉藤慎二が、スタッフの質問に答えていく形で進んでいく。

スポーツニッポンなどの報道によると、芸人仲間との付き合いは「ほとんどない」と話し、いまの仕事はバームクーヘンを全国で売り歩く移動販売だけだそうです。

お金のことを聞かれると、「金銭はまあ大変ですね」と答えています。

動画の中ではさらに、お金を借りている相手がいて返済があること、家族もいることに触れたうえで、こう続けていました。

「お金はもうおそらく困ってる状態ではあるんで、なんとかしたいな、打破したいな」

このチャンネルを始めた理由がお金だということを、本人は隠していないわけです。

裁判は、いまこういう段階にあります。

2024年10月に不同意性交などの疑いで書類送検され、同じ月に吉本興業との契約を解除されて、ジャングルポケットを抜けました。

2025年3月に在宅のまま起訴され、2026年3月の初公判では「同意してくれていると思った」と述べて、起訴の内容を否認。

8月5日の公判で検察側は懲役7年を求め、弁護側は無罪を主張して結審したと報じられています。

判決が出るまでは罪が決まったわけではないので、この記事では呼び方を「斉藤被告」にそろえることにしました。

つまり今は、法廷でのやりとりが全部終わって、裁判所の答えだけを待っている時期。

そこで始まったのが、自分の顔と名前を看板にした新しいチャンネルでした。


27分の『心境』に出てこない言葉

タイトルに「心境」とあるので、裁判のことを少しは話すのかなと思って開いた人もいるはず。

ところが27分のあいだ、裁判・判決・被害を訴えている女性、そのどれもが話に出てきません。

後半は、街で見つけた占い師に運勢を見てもらう場面に長い時間が使われています。

謝罪の言葉が見つかるのは、動画の外、概要欄の最初の2行だけでした。

「多くの方にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。様々なお声があることも承知しています。」

もちろん、斉藤被告の側に事情があるのも確かです。

無罪を主張して判決を待っている立場なので、事件の中身に自分から触れれば、それがそのまま裁判に関わってしまいます。

話せないことがあるのは、当然でしょう。

ただ、話せないのなら、「今の心境」という看板は掲げるべきではありませんでした。

斉藤被告のお笑いを好きだった人が今もいるのも、本当のこと。

その「お笑い」について、オリコンニュースによると、斉藤被告は2026年6月2日の被告人質問でこう述べていました。

「相方、先輩、後輩、スタッフを裏切ってしまった。人を笑顔にすることと真逆のことをしてしまった」

法廷で「人を笑顔にすることと真逆」と口にしてから、およそ5か月後に書いたのが「誰かを楽しませたい、笑ってもらいたい」でした。

 

示談の条件にあった『芸能活動を続ける』

引っかかりの正体は、3月の法廷に。

2026年3月17日の第2回公判で、被害を訴えている女性が、別室からビデオ映像でつなぐ形で証言しています。

東京スポーツの報道によると、女性はそこで、斉藤被告の側から示談金2500万円を示されていたことを明かしました。

そしてその示談には、条件が付いていたといいます。

女性の証言では、条件は「罰を求めない」ことと、「芸能活動を続ける」ことだったそうです。

女性はこの示談を受け入れず、実刑を望む姿勢を示してきたと報じられています。

8月5日の公判では、女性がついたての後ろから、自分の気持ちを述べました。

中日スポーツの報道によると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が続いて複数の薬を飲んでいて、勤め先は休職中。

テレビに出る仕事も途絶え、SNSに笑顔の写真を載せることさえ怖くなったと話しています。

そのうえで女性は、斉藤被告が続ける芸能活動と受け取られるような活動に、苦痛を感じていると述べ、一度も謝罪を受けていないことも明かしました。

示談を断ったという事実は、裁判を追っていた人たちのあいだで何度も共有されています。

「女に騙された」という見方に、示談を断った事実で言い返している投稿です。

 

示談の条件にあった「芸能活動を続ける」と、法廷で訴えた「苦痛」は、同じものを指しています。

「お笑いを全力で」と書いて始めたYouTubeは、まさにその「芸能活動と受け取られるような活動」に当たってしまう。

YouTubeを始めること自体は誰にも止められない自由ですし、法律に触れるわけでもありません。

それでも女性の側から見れば、示談で認めなかったことが、判決を待つあいだに始まった形です。

女性は、2024年10月に斉藤被告の妻がSNSに「一部事実と違う報道」と書いたことをきっかけに、中傷を受けたとも訴えています。

ライブドアニュースによると、法廷では「『ハニトラ』『売名』『嘘つき』などの誹謗中傷も相次ぎました」と語ったそうです。

この点には、ネットでもこんな声がありました。

中傷を書いたのが斉藤被告本人ではないのは、その通りです。

ただ今回のYouTubeは、判決の前に斉藤被告が自分で開いた、コメント欄つきの場所なんですよね。

中傷が集まりかねない場所を、いま自分から増やしたことになります。


お詫びのすぐ下にあった企業向けの連絡先

「お金に困っているなら仕方ない」と思う気持ちも、分からなくはありません。

8月の求刑の直後にも、TikTokのライブ配信で視聴者にギフト(投げ銭)を求める様子が広まり、お金に困っているのではと話題になっていました。

ただ、このチャンネルには少し変わった順番があります。

概要欄には、お詫びの2行と「笑ってもらいたい」の言葉のすぐあとに、応援してくれる企業を募る連絡先のメールアドレスが書かれているんです。

動画の終盤でも、スタッフに今後の方針を聞かれて、スポンサーのような形で応援してくれる人がいたら、と口にしています。

どんな動画を撮っていくかは「まだ軸も決まってない」と本人は話しているのに、企業向けの連絡先は最初の動画から用意されていました。

「収益化」について言えば、YouTubeの広告収入は、チャンネル登録者数や再生時間の条件を満たすまでは受け取れない仕組みになっています。

始めたばかりのチャンネルに、すぐ広告のお金が入るわけではありません。

だからこそ、広告より先に企業からの応援を募る形になっている、ということなのでしょう。

 

ネットでは、この動画に「反省してます、生活苦しいですアピールにしか見えん」「今のうちにちょっとでも稼いでおきたいんだろうな」という声も。

そう受け取られてしまう理由は、動画と概要欄の並びを見れば、はっきりしています。

お詫びは「多くの方」に向けた2行だけで、被害を訴えている女性のことも、判決を待っている裁判のことも、27分の中に一度も出てきません。

お金の入り口だけは、最初の動画から開いている。

反省より先に、稼ぐ準備のほうが見えてしまう並びなんです。

「アピールにしか見えない」と言われても仕方のない作りだと、私は思います。


批判と大喜利に割れた反応

では、このチャンネルを見た人たちは、斉藤被告に何を求めているのでしょうか。

動画のコメント欄と、斉藤被告のXの投稿に寄せられた声を読んでいくと、反応は大きく2つに割れていました。

被害を訴える女性の側に立って批判する声と、事件そのものを大喜利のネタにする声です。

 

被害女性を思って批判する声

まず目立ったのは、判決の前に表へ出てこないでほしい、という声。

動画のコメント欄にも、「YouTubeやるのは判決出てからやれよ、被害者が見たら気分悪いだろうな」という書き込みがありました。

中身は、「二度と顔を見せるな」という突き放しとは少し違うと思います。

被害を訴える人がいる裁判の判決を待つあいだくらいは、静かにしていてほしい。

求められているのは、引退というより「順番」なんですよね。

女性が法廷で「芸能活動と受け取られるような活動が苦痛」と述べたことを知っている人ほど、この順番にこだわっているように見えます。

 

事件を大喜利にする声

ところが、コメント欄のいちばん上に並んでいるのは、別の種類の声でした。

事件の現場になったロケバスを持ち出して笑いにする書き込みや、起訴された行為そのものをもじった書き込みが、いちばん多くの賛同を集めています。

その下にも、「もうすぐ判決出ますね!」「2本目の動画が7年後だったら笑えると思う」と、判決や求刑をネタにする書き込みが続いていました。

動画の中でよく拾われていたのは、占い師の場面です。

マスクをしていた斉藤被告に気づかないまま、占い師は「全部自分が悪いんですよって。まずあなた自身心からそう思うことですよ」と話していて、コメント欄にはこの場面を笑う書き込みがついていました。

心霊系の配信者からは、さっそく共演の誘いまで。

判決前にYouTubeを始めた判断がいじられるのは、斉藤被告自身が招いたことでもあります。

でも、事件の中身そのものを笑いのネタにする書き込みは、話が別です。

女性は法廷で、SNSに笑顔の写真を載せることさえ怖くなったと語っていました。

その女性が受けたと訴えている被害を、誰でも見られる場所で笑いのネタにするのは、笑えません。

そして、そのコメント欄の持ち主は、斉藤被告本人です。

「どんな形であれ、斎藤さんが自然に元気になれるまで応援してます」という応援の書き込みもありますが、コメント欄の上のほうには上がってきていません。

概要欄の「笑ってもらいたい」と、いまコメント欄で起きている笑いは、まったく別のものになっている。

 

「バームクーヘンはどうなったの」

斉藤被告は、週刊誌『女性自身』の報道によると2025年4月から、バームクーヘンの移動販売で各地を回ってきました。

2025年11月には販売会社との金銭トラブルも報じられ、双方の言い分はぶつかったままです。

3月の初公判のあとも販売の告知を続けていたことには、あきれる声が出ていました。

今回の動画でも「全国回ってる」と話し、概要欄の最後にはバームクーヘンの案内が載っています。

この仕事をこの先どうするのかは、動画の中で本人が答えていました。

「バームクーヘンの販売だけではなくて色々ちょっと頑張ろうかな」

バームクーヘンだけでは足りないから、YouTubeを足した、ということ。


『7年は重すぎる』で割れる見え方

YouTubeの話とは別に、斉藤被告のXの投稿への返信で目立っていたのが、裁判そのものへの声です。

「懲役7年は重すぎる」という声で、ほかの事件の判決を引き合いに出して比べる人も少なくありません。

この投稿にもあるように、「密室で女性と話すのすら注意した方がいい」という不安とセットで語られることが多い声です。

一方で、被害を訴える女性の側に立つ人たちは、「示談を断っている」「騙して何の得があるのか」と言い返していて、同じ裁判を見ているのに、見えているものがまるで違う。

SNSではこの件が男女の対立のように語られることも多いのですが、ずれの後ろにあるのは、2023年に変わった法律です。

法務省によると、2023年7月13日から、それまでの強制性交等罪は「不同意性交等罪」に変わりました。

以前は暴行や脅迫があったかどうかが大きな分かれ目でしたが、いまは同意しない意思を示すのが難しい状態につけこんだかどうかが問われ、その例として8つの場面が書き込まれた形です。

そのひとつが、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」。

かみくだくと、相手の立場や力を恐れて断れない状態、ということです。

女性が法廷で語った「影響力の大きい事務所に所属する被告人に、どのような報復を受けるか分からない恐怖」は、この項目を思い出させる言葉でした。

どの項目に当たるのか、そもそも罪になるのかを決めるのは、11月16日の裁判所。

ただ、線の引き方が変わってまだ3年ほどなので、「同意をどう確かめればいいのか」と不安になる人が出るのも無理はありません。

弁護士のこんな解説が広く読まれたのも、その不安の表れだと思います。

この解説は、こうした裁判の仕組みについての話で、今回の判決を予想したものではありません。

参考までに、不同意性交等罪は刑法で「5年以上」と刑の下限が決められている罪で、求刑の7年はそこから2年上の数字です。

11月16日にまず決まるのは、刑の重さより前の問題で、女性の同意があったのかどうか、そして斉藤被告がそれを分かっていたのかどうか。

斉藤被告は6月2日の公判で、「嫌じゃなかったですか?」と何度も確かめたと話しています。

一方の検察側は、女性が拒んだうえに斉藤被告が「ごめんね」と謝っていたことを挙げて、同意がないと分かっていたと主張。

 

ここで、はっきり分けておきたいことがあります。

7年が重いかどうかの議論と、判決の前にYouTubeを始めてよいかどうかは、まったく別の話です。

「7年は重い」と感じている人の多くも、YouTubeまで擁護しているわけではないと思います。

刑の重さにどんな意見があっても、女性が「苦痛」と訴えた芸能活動を判決の前に再開してよい理由にはならない。

「判決が出てからにして」と言っている人たちが守ってほしいのは、刑の重さとは関係のない、その順番だけです。

どちらの言い分が通るのかは、11月16日に裁判所が言葉にするまで、誰にも分かりません。

ただ、判決がどちらに出たとしても、女性が法廷で語った「芸能活動と受け取られるような活動が苦痛」という訴えは、そのまま残ります。

中日スポーツによると、8月5日の最終陳述で斉藤被告は、女性が退廷したあとの検察側の席に向かって頭を下げ、「申し訳ございませんでした」と謝ったそうです。

女性本人の前で謝る場面には、なりませんでした。

お金に困っているのが本当だとしても、その訴えを聞いたあとで、判決を待たずにお笑いのチャンネルを始めた。

この順番だけは、間違っていたと思います。

11月16日まで、待ってほしかったですね。