2026年10月5日の午前0時すぎ、「#KAITO」のタグには、青いマフラーの絵でも新しいボカロ曲でもない投稿が流れこんでいました。

King & Prince(キンプリ)の公式アカウントが0時3分に、髙橋海人のソロ曲「swim?」の配信開始を、「#KAITO」を付けて知らせたからです。

前日の夕方のインスタライブで、髙橋海人がボカロのKAITOを「レジェンド」と呼んだばかり。

しかもKing & Princeの公式アカウント自身は、前日4日の告知では、いったん「#KAITO」を外していたんです。

 

2026年10月3日に「KAITO」の名前でソロ活動を始めると発表されてから、KAITOのファンが訴えてきたことは、最初から1つしかありません。

名前は本名だから仕方ない。

でも、タグだけは分けてほしい。

「レジェンドと呼ぶくらい知っているなら、どうしてそこだけ聞いてもらえないの?」と、もやもやしたまま夜を過ごした人も多いのではないでしょうか。


#KAITOしか居場所がないKAITO

KAITOは、2006年に札幌のクリプトン・フューチャー・メディアが発売した、男性の声で歌う歌声ソフトのキャラクターです。

そのKAITOには、公式のプロフィールが驚くほど少ないんです。

公式に決まっているのは、青い髪と長い青いマフラーという見た目くらい。

性格も、口ぐせも、ファンの間でおなじみのアイス好きという設定も、曲や絵を作ってきた人たちが20年かけて積み上げてきたものです。

その曲や絵は、数えきれない個人がネットにばらばらに投稿したもので、それをひとつにつないでいるのが「#KAITO」のタグなんです。

しかも人間のアイドルとは違って、KAITOには名字も漢字の名前もなく、正式な名前はKAITOの1つだけなので、ほかのタグへ移りようがありません。

そこへ、ファンの数がケタ違いのアイドルの新曲の告知と感想がまとめて流れこんでくると、20年分の作品はあっという間にその下へ沈んでいってしまいます。

 

Xのタイムラインだけでなく、YouTubeや検索の画面でも、ボカロのKAITOが埋もれはじめている。

検索窓に「KAITO」と打っても最初に兄さん(KAITOの愛称)が出てこない、という声が、発表の翌日にはもう上がっていたんです。

 

なかでも困るのは、いま新しく作品を上げている、まだ名前の知られていない作り手です。

フォロワーの多い作り手なら、タグが混ざっても、ふだんフォローしている人には届く。

けれど、今年はじめてKAITOの曲や絵をネットに上げた人にとって、「#KAITO」は見つけてもらうためのほとんど唯一の入口です。

KAITOの20周年の今年、新しく兄さんを描こうと決めた人ほど、見つけてもらう機会を削られやすいのかもしれません。


「レジェンド」と呼んだ5時間後の#KAITO

10月4日の夕方6時半すぎ、インスタライブで髙橋海人は、ソロの名前をどうするか「すごい悩んでた」と打ち明けています。

世の中には髙橋という名字も、かいとという名前も多いこと。

同じ事務所の仲間にも、「かいと」が何人もいること。

そして「ボーカロイドでKAITOさんっていう方もいて」「もうレジェンド」と、自分からボカロのKAITOの名前を出しました。

生配信を見ていた人の書き込みによると、まったく違う名前も考えたけれど、海外の人にも聴いてもらえるなら自分の名前を背負いたくて、KAITOに決めたそうです。

 

インスタライブを見ていたKing & Princeのファンからは、「ちゃんとリスペクトを込めて触れてくれた」と喜ぶ声が上がりました。

けれど、KAITOのファンの耳に引っかかったのは、まったく別のところ。

もし触れなければ「知らなかった」で済んだかもしれない話が、本人の口から語られたことで、「知っていた」に変わったわけです。

 

存在を知っていて、敬意まで口にした。

それなのに、その5時間あまりあとに出たKing & Prince公式の配信開始のお知らせには、ボカロと同じ「#KAITO」が付いていた。

せっかく言葉で敬意を示したあとに同じタグを使われると、その敬意まで軽く聞こえてしまうんですよね。


KAITOを名乗る髙橋海人のプロフィール

  • 名前 髙橋海人(たかはし かいと)
  • 生年月日 1999年4月3日
  • 出身 神奈川県
  • 所属 King & Prince
  • ソロの名前 KAITO

King & Princeは2018年5月にCDデビューし、2023年5月にメンバー3人が抜けてからは、永瀬廉と2人で活動を続けています。

ソロの1曲目「swim?」は、作詞作曲からジャケットの絵、ミュージックビデオまで本人が手がけた曲です。


曲も絵も自分で作る髙橋海人の経歴

髙橋海人は子どものころからダンスを続け、2013年7月に当時のジャニーズ事務所へ入りました。

俳優としても、2023年のドラマ「だが、情熱はある」でオードリーの若林正恭を演じ、ザテレビジョンドラマアカデミー賞の主演男優賞を受賞しています。

 

そして、アイドルや俳優とは別のもう1つの顔が、作り手です。

2024年からは自身のSNSで自作のキャラクター「セロル」を描き続け、2026年9月には渋谷PARCOで初めての個展「不思議なセロル展 created by 髙橋海人」を開きました。

自分でゼロからキャラクターを生み、名前を付けて、SNSで見つけてもらってきた人。

だからこそKAITOのファンには、名前とタグで作品を探す文化を、いちばん分かってくれそうな人に見えるのだと思います。


公式ごとにバラバラのタグ

発表から配信までの3日間で、公式の告知に付いたタグはこう動きました。

  • 10月3日夜 King & Prince公式とファンクラブ会員向けサービス(FAMILY CLUB online)のX=「#KAITO」あり
  • 10月4日 King & Prince公式=長い専用タグ「#髙橋海人KAITOソロシングルリリース」だけ
  • 10月4日夜 レコード会社のユニバーサル ミュージック=告知の投稿の冒頭に「【#KAITO】」
  • 10月5日0時3分 King & Prince公式=「#KAITO」が戻る
  • 10月5日朝8時 STARTO社(旧ジャニーズ事務所のタレントのマネジメントを引き継いだ会社)の海外向けアカウント=「#髙橋海人」「#KaitoTakahashi」

KAITOの名前が入ったタグの付け方が、3日間で3通りに分かれているんです。

誰が決めているのか見えないまま、いちばん目立つ解禁の告知で、ボカロと同じ「#KAITO」が使われてしまった。

 

広げる道具と探す道具

髙橋海人の活動は、配信サービスやテレビ、ライブにも広がっていて、ネットの投稿はそのたくさんある入口のひとつにすぎません。

KAITOにも公式のゲームやライブはありますが、20年分の曲や絵のほとんどは、個人がネットに投稿したもの。

外から見れば同じハッシュタグでも、片方には宣伝の道具で、もう片方には活動の拠点そのものなんです。

レコード会社のユニバーサル ミュージックは10月4日、髙橋海人の生配信が終わったあとに、「ハッシュタグで一緒に盛り上げてくださり、ありがとうございました!!」とXに投稿しています。

公式にとってのタグは、みんなで同じ言葉を投稿して、話題を大きく盛り上げるための道具。

それに対してKAITOのファンにとってのタグは、20年分の曲や絵を探すための目印です。

 

そして熱心なファンほど、公式が付けたタグに合わせようとしますよね。

0時の配信開始にあわせて、ニュースサイトの公式アカウントまで、配信開始を報じる記事に「#KAITO」を付けて流しはじめました。

髙橋海人のファンが「#髙橋海人KAITOソロシングルリリース」という長い専用タグへ移ろうとしても、公式が「#KAITO」を付けるたびに、そのタグへ引き戻されてしまう。

いまのところ、King & Prince公式からもユニバーサル ミュージックからも、タグについての説明は一切出ていません。


タグを移した髙橋海人のファン

4日の生配信のあと、King & Princeのファンの中から、新曲の感想に「#KAITO」を付けないようにしようと呼びかける人や、KAITOのファンに向けて丁寧に謝る人が出てきたんです。

この騒ぎをきっかけに、KAITOを知った人もいます。

もちろん、ネットの議論の中でファン同士がいつも穏やかだったわけではなく、「タグくらいで騒ぎすぎ」「オタクが私物化している」と言われて、悔しい思いをしたKAITOのファンもいたはずです。

それでも、ファン同士のあいだでは、もう棲み分けが始まっていた。

だからこそ、ファンが棲み分けを進めていた矢先の0時の公式の「#KAITO」には、髙橋海人のファンからも「しんど」と嘆く声が上がったんです。


ファン以外の人が見たタグ被り

どちらのファンでもない人からは、こんな声が出ています。

一方で、外から見ていた人の中には「本名なんだからいいだろう」「ありふれた名前がかぶっただけで怒りすぎ」と書く人もいました。

ただ、こう書いた人は、名前を名乗ることとタグを被せることを一緒にして、KAITOのファンが名前に怒っていると受け止めているようなんですよね。


知名度の勝ち負けではない

騒ぎが広がると、「海外ならボカロのKAITOのほうが有名」「日本なら髙橋海人のほうが有名」と、どちらが有名かの不毛な言い合いまで始まりました。

あとから来た側が有名なら有名なほど、20年かけて先にいた側の作品は、深く埋もれてしまいます。

「海外なら」という話にも、見落としがひとつ。

そもそもKAITOという名前は、発売前の公募で集まった候補の中から、外国の人にも発音しやすいという理由で選ばれたと伝えられています。

奇しくも髙橋海人がKAITOを選んだ理由も海外の人に聴いてほしいからでしたが、海の向こうにもKAITOのファンは大勢いて、同じ「#KAITO」で絵や曲を投稿しているのです。

海外を目指せば目指すほど、タグの混ざる範囲は広がっていくんです。


タグを手放したVTuberの前例

「結局こっちが引くことになるのでは」と、不安を口にするKAITOのファンもいます。

その心配が現実になった前例が、ネットの歴史に残っています。

2024年8月7日、人気VTuber(アニメのような姿で配信をする人)のみけねこさんが、配信の感想を書き込むためのタグを「#ねここらいぶ」に変えました。

ところがこれは、個人で活動するVTuberのはるさめねここさんが、4年以上前から使ってきたタグ。

結果、タグを変えると報告したのは、何年も先に使っていたはるさめねここさんでした。

ネットで批判を集めたのはあとから来た側なのに、場所を明け渡したのは先にいた側。

混乱を避けるためにKAITOのファンから出ている「#VOCALOIDを足して見分けよう」という案も、結局は先にいた側がひと手間を引き受ける形になってしまいます。


タグを分ける答えは公式の中に

そんななかで、明るい材料も1つだけあります。

10月5日の朝8時、STARTO社の海外向けのアカウントは、配信開始とミュージックビデオの公開を、英語と中国語でこう知らせていました。

付いていたのは、漢字の「#髙橋海人」と、名字まで入ったローマ字の「#KaitoTakahashi」。

このフルネームなら兄さんの絵や曲とは混ざりませんし、King & Princeのファンの中には、さっそく「STARTOから公式タグ」と書いて広める人も出ています。

KAITOと混ざらないタグを、公式のアカウントがもう使っているんですね。

あとは、King & Prince公式とユニバーサル ミュージックの告知がそこへそろうかどうか。

「レジェンド」と呼んだ敬意は、言葉よりも、公式の告知のタグでこそ示してほしいですよね。