「私も星奈さんも、初婚ではありません」

2026年11月2日、くるりの岸田繁が、ホルン奏者の米﨑星奈との結婚を発表しました。

この一文は、バンドの公式noteに載せた長い文章の中にあります。

お祝いの言葉が次々と並ぶ一方で、ネットでは「あれ?前のご家族とは別れていたの?」と手が止まった人も少なくないようです。

家族と穏やかに暮らしているものだと思っていた、という戸惑い。

前の結婚はどうなっていたのか、前のご家族はどうしているのか、気になって検索した人もいるはず。

その疑問について岸田繁自身が何を書いたのかも、同じnoteの中にきちんと残されていました。


「おめでとう」より先に来た「あれ?」

お祝いしたい気持ちはあるのに、どこかすっきりしない。

そんなまま、ニュースを何度も読み返した人も多かったはずです。

岸田繁は京都出身の50歳で、1996年に立命館大学の音楽サークルの仲間とくるりを結成し、30年にわたってバンドの曲を書き続けてきました。

発表があったのは11月2日の夕方5時ごろで、Xには結婚を伝える1枚の画像と、noteへのリンクが投稿されています。

お相手の米﨑星奈は兵庫県明石市の出身で、関西のプロ・オーケストラの演奏会に、主にセカンド・ホルン奏者として参加している音楽家だそうです。

 

反応の多くは、もちろんお祝いでした。

ただ、長くくるりを聴いてきた人ほど、別のところで引っかかっていたようです。

デビューのころから聴いてきた人にとって、岸田繁は家庭を持っている人だ、というのはずっと当たり前の前提でした。

ネットには、家族円満だと思っていたので突然の報告に動揺してしまった、という声もあり、離婚していたこと自体を今回の発表で初めて知った人が多かったようです。

祝う気持ちと戸惑いが、ひとりの胸の中に並んで座っていました。


言葉を尽くした「近況と雑感」

Xに流れてきた画像には結婚のことしか書かれていなかったので、「まるで初婚かのような報告」と感じた人もいましたが、noteを最後まで読むと、印象は少し変わってきます。

まず、noteにつけられたタイトルは「近況と雑感」で、結婚という言葉は入っていません。

中身の大半は、米﨑星奈との出会いの話でした。

2人が出会ったのは、くるりが京都で開いてきた音楽イベント「京都音楽博覧会」の2017年の現場で、リハーサルで聴いた彼女のホルンに「一聴惚れ」したという岸田繁は、終演後に「良い音だねぇ」と声をかけたそうです。

その後、コロナ禍のさなかに書いた「潮風のアリア」という曲でホルン・アンサンブルが欲しくなり、彼女に連絡を取ったのが、一緒に仕事をするようになったきっかけでした。

交際を始めたのは昨年からで、2人とも広島東洋カープのファンなのに、まだ一緒に球場へ行ったことはないのだとか。

 

そうした話のあとに、「初婚ではありません」の一文が置かれていました。

「私は50歳になりました。私も星奈さんも、初婚ではありません。これまで、それぞれの人生を歩んできました」

日刊スポーツは、このくだりを受けて「再婚発表」という見出しで伝えました。

少なくとも「前にも結婚していた」ことは、本人の手で、はっきり書かれていたわけです。

原文を読んだ人の中には、その言葉の多さそのものに心を動かされた人もいました。

ただ、多くの人がいちばん知りたかった「前の結婚はどうなっていたのか」「前のご家族はどうしているのか」は、そこには書かれていません。


子どもたちを含む家族へのお願い

書かれていない理由は、「初婚ではありません」のすぐ次の段落にありました。

以前の結婚や家族については、私たちだけに関わる話ではないため、詳しくお話しすることは控えます。子どもたちを含む家族への直接の問い合わせや、私生活についての憶測の拡散はお控えいただき、それぞれの生活を尊重していただければと思います。

出典:くるり official note「近況と雑感」(2026年11月2日)

目が止まるのは、「私たちだけに関わる話ではない」という言い方です。

「私たち」は岸田繁と米﨑星奈の2人ですから、前の結婚の話には、この2人のほかにも当事者がいることになります。

2人それぞれの前の結婚には相手がいて、家族がいて、その人たちはステージに立っているわけでも、自分から何かを発表したわけでもありません。

前の結婚のことを話していいかどうかは、岸田繁ひとりでは決められない話だったんです。

 

長く応援してきたからこそ、前の結婚のことを知りたくなるのは自然なことで、ネットでも「どなたかご存知ないかしら?」と、詳しい人に尋ねる投稿が出ていました。

悪気があって聞いているわけではないことも、読んでいて伝わってきます。

ただ、その答えを抱えているのは、表に出ていない人たちでもあるんですよね。

そこから先は話さないと、本人がnoteの中で決めていました。


祝う声と祝えない声

前のご家族のことを思うと、どうしても「おめでとう」と言い切れない人もいます。

その気持ちも、よく分かるんです。

反対に、結婚を報告した人に前のご家族のことを聞くのは野暮で、おめでとうだけでいい、という声も上がっていました。

向きは逆でも、どちらも誰かを傷つけたくないという同じところから出ている声です。

その真ん中で、祝えない自分は冷たいのかな、と思ってしまう人もいるのではないでしょうか。

 

ここで、もう一度noteの言葉に戻ってみましょう。

岸田繁が読む人に頼んでいたのは、「子どもたちを含む家族への直接の問い合わせ」と「私生活についての憶測の拡散」を控えてほしい、という2つでした。

noteの終わり近くには、周りの人たちが2人をそれぞれひとりの人間として付き合い、「二人でいることを自然に受け止めて」くれていることが嬉しい、とも書かれています。

お祝いするかどうかは読む人に任されていて、頼まれていたのは詮索を広げないことだけでした。

おめでとうと言う人も、言わずに「末永くお幸せに」とだけ書く人も、そこは同じように守れる、というわけです。

「おめでとうは言わん」と書いた人も、人の結婚や離婚をあれこれ言わないと自分で決めたうえで、くるりの曲は聴き続けると書いていました。


米﨑星奈のホルンが入った「潮風のアリア」

noteの最後には、「追記」として音楽の話が添えられています。

くるりのソングライターとして30年が過ぎたこと、相棒の佐藤征史をはじめ、たくさんの出会いに刺激をもらってきたこと。

そのうえで、「同じ音楽家でもある彼女と支え合いながら、これからも私らしく、音楽を作り続けていこうと思います」と結んでいます。

岸田繁は、彼女が加わった「潮風のアリア」の演奏を、「楽曲の風景を決定づける、素晴らしい演奏」と書いていました。

あの曲のホルンを、聴き直したくなった人もいるかもしれません。

noteに書かれていたのは、新しい暮らしの話と、前の暮らしにはそっとしておいてほしいというお願いでした。

前のご家族のことは前のご家族のもので、聴く側に届くのはこれからのくるりの音、ということなのかもしれませんね。