慶應義塾大学4年の新沢かれん容疑者(22)が、アルバイト先のスポーツ施設で客のクレジットカードを盗み、化粧品の購入に使った疑いで逮捕されました。

警視庁はマスターキーを使ってロッカーを開けたとみており、ほかの利用客についても総額約100万円の被害を確認し、関連を調べています。 

 

さらにネット上では、

  • ニューヨーク生まれの帰国子女
  • 慶應SFC
  • スキー部マネージャー

といった華やかな経歴も拡散され、「恵まれた経歴に見えるのになぜ」という印象を持った人も少なくないでしょう。

中には「クレプトマニア(窃盗症)では?」といった見方も広がっています。

ただし最初に明記しておくと、新沢容疑者がクレプトマニアだと診断された事実は確認されていません。

以下は、報道されている行動と医学的な一般論を照らし合わせて、一個人としての考察してみました。

 

慶應大4年の帰国子女がなぜクレカ不正利用?

今回の事件がここまで注目された理由は、犯行内容だけではないと思います。

大きいのは、やはり本人について伝えられている経歴と、事件との落差です。

ニューヨーク生まれ・慶應SFCという経歴

ネット上では、新沢容疑者について

  • ニューヨーク生まれ
  • 海外の高校を卒業した帰国子女
  • 慶應義塾大学総合政策学部に在籍していたといった

情報が広がっています。スキー部に関係していたとする情報も確認できます。

これだけで、新沢容疑者が裕福な家庭に生まれ育ったのではと想像しますよね。

ただ、ここは少し冷静に見た方がよさそうです。

「慶應だからお金持ち」「帰国子女だから裕福」というところまで決めつけることはできません。

学歴や生まれ育った場所だけで、その人の家計や自由に使えるお金まで分かるわけではないからです。

 

それでも、ニュースを見た側が「生活に困ってカードを使った事件には見えない」と感じたのは理解できます。

何より本人の供述として報じられたのは、「生活費が必要だった」ではなく、「商品が欲しくて衝動的にカードを使った」という説明でした。

ここが、普通の金銭目的の事件とは少し違って見える部分です。

「なぜ化粧品のために?」と違和感が広がる

報道されている直接の容疑では、盗んだとされるカードを使って購入したのは、約1万4000円相当の化粧品2点でした。 

たしかに欲しい化粧品があったとしても、大学4年生という立場で他人のクレジットカードを使うリスクはあまりにも大きい。

逮捕、退学処分、内定取り消し…金額だけを考えれば、まったく割に合いません

だから「どうしてそこまでして?」という疑問が残るんですよね。

普通ならここで「お金がなかったのでは」と考えます。

ところが、今回出ている情報を眺めると、それだけでは妙に説明しきれない感じがあります。

そこからクレプトマニアという言葉が連想されたのだと思います。

華やかな経歴と事件内容に感じる大きなギャップ

この事件で人を引きつけているのは、「名門大学の学生が逮捕された」という肩書きだけではありません。

もっと正確に言えば、「失うものが大きそうに見える人が、なぜこれほど小さな利益のために大きなリスクを取ったのか」という不思議さでしょう。

これは、本人の人格を決めつける話ではありません。

むしろ逆です。

経歴だけ見れば「こういう犯罪とは縁がなさそう」と勝手に想像してしまう。

だから事件を知った瞬間に、そのイメージが崩れて驚くわけです。

ただし、学歴が高ければ犯罪をしないわけでも、海外経験があれば衝動を抑えられるわけでもありません。

ここを「慶應なのに」と面白がるだけでは、結局何も見えてこないでしょう。

今回もっと気になるのは、本人が使った「衝動的」という言葉です。

「衝動的に使った」という供述はどう見る?

新沢容疑者は、不正利用について「商品が欲しいと思って衝動的にカードを使った」と話していると報じられています。

この一文だけを読むと、つい魔が差した。

そんな印象を受けます。

ところが事件全体を見ると、少し引っかかります。

 

マスターキー使用は本当に衝動的だった?

警視庁は、新沢容疑者が勤務先に保管されていたマスターキーを使って更衣室のロッカーを開け、カードを盗んだとみています。

本人はカードについては「更衣室で拾った」と話しており、窃盗の部分は否認しています。 

もちろん、これは現時点で警察が捜査している内容であり、確定した事実として扱うべきではありません。

ただ仮に報道されている手口がそのまま認定されるなら、一瞬で終わる行動ではないんですよね。

マスターキーを使う → カードを持ち出す → 別の場所へ行く → 化粧品を買う

「衝動的」という言葉は一瞬の行為を連想させます。

でも窃盗からクレカ不正利用というのは何段階も行動がありますよね。

 

本人が語る「衝動」が、カードを使った瞬間だけを指しているのか。

それとも、そこへ至る一連の行動全体を指しているのか。

ここはかなり重要な違いだと思います。

 

少額決済を選んだ点にも残る疑問

さらに警視庁は、ほかの利用客についても総額約100万円の被害を確認し、新沢容疑者との関連を捜査しています。

現段階では、これらすべてを本人による犯行と断定することはできません。

もし今後、同じような行為が繰り返されていたと明らかになれば、「一度だけ衝動的に使ってしまった」という説明だけでは見え方が変わってきます。

 

一方で、繰り返していたからクレプトマニアだ、とも言えません。

ここが難しいところです。

反復性があることと、クレプトマニアであることは同じではありません。

むしろ医学的な診断基準を見ると、今回の事件にはクレプトマニア説と噛み合わない部分もあります。

クレプトマニアの特徴と今回の事件を比較

クレプトマニアは「窃盗症」として扱われています。

典型的には、

  • 個人的に使う目的や金銭的価値のためではない
  • 物を盗みたいという衝動に繰り返し抵抗できない
  • 窃盗の直前に緊張が高まる
  • 行為の際に快感や解放感が生じる

などが診断上のポイントになります。

ここを今回の事件と比べてみます。

お金に困っていなくても盗むことはある

クレプトマニアについて「お金持ちなのに盗む病気」と理解されることがありますが、それだけでは正確ではありません。

重要なのは裕福か貧しいかではなく、盗む理由が金銭的利益や自分で使うためなのか、それとも盗む衝動そのものなのかという点です。

その意味では、

  • 「慶應大生だから」
  • 「帰国子女だから」
  • 「経済的に困っていなさそうだから」

という情報だけでクレプトマニア説を強めることはできません。

 

むしろ、今回気になるのは盗んだとされる「カード」が、その後の買い物に使われていることです。

クレプトマニアの典型例では、盗品そのものの個人的な使用や金銭的価値を目的とせず、盗んだ物への関心も薄いとされています。

専門論文でも、盗品を捨てたり戻したり、ため込んだりする例が説明されています。

今回報じられている行為は、カードを使って欲しかった化粧品を購入するというもの。

ここは典型的なクレプトマニア像とは少しズレます。

「盗む衝動」と今回の行動は一致する?

もう一つ重要なのが、衝動の中身です。

クレプトマニアでは、「盗みたい衝動に抵抗しようとするものの、抑えきれず行為に至る」という流れが重視されています。

また司法精神医学の論文では、典型例では事前準備が乏しく、状況判断や発覚への注意も十分ではない場合があると説明されています。

ここでも、マスターキーを使ったとされる今回の手口とは少し引っかかりが残ります。

もちろん、「鍵を見て突然衝動が起きた」という可能性まで外から否定することはできません。

 

でも逆に、「マスターキーを使ったからクレプトマニアだ」とも言えません。

診断に必要な、窃盗直前の緊張感や、盗んだ瞬間の快感・解放感などは、今回の報道からは分からないからです。

結局、外から確認できる行動だけでは、肝心な診断材料が足りません。

クレプトマニア説だけでは説明できない点も

ここまで比べてみると、私自身は「クレプトマニアの可能性がある」と積極的に言える材料は、現時点ではかなり少ないと感じます。

  • 本人が「衝動的」という言葉を使っている。
  • 経歴からは金銭的に追い詰められていたように見えにくい。
  • 警察がほかの被害との関連も調べている。

このあたりだけを見ると、たしかにクレプトマニアという言葉を思い浮かべたくなるでしょう。

ただ、医学的な特徴まで照らし合わせると話は別です。

 

今回報じられているのは、カードそのものを盗むことが目的ではなく、欲しい化粧品を購入するためにカードを利用したという行動です。

これは「盗む行為そのもの」が中心になる典型的なクレプトマニアとは、簡単には重なりません。

さらに、クレプトマニアという診断が付いたとしても、それだけで「本人には責任がない」という話になるわけでもありません。

クレプトマニアについて論じた司法精神医学の文献でも、診断の存在だけで特定時点の行動制御能力を判断することはできないとされています。

ネットでは、容姿や体形から摂食障害、ダイエット薬などに話をつなげる投稿も見られます。

「無理なダイエットをしたから、薄毛になったのでは?」みたいなポストもちらほら…

ただ、写真だけから健康状態を判断することはできませんし、本人に摂食障害があるという確認情報もありません。

摂食障害と窃盗行為の併存について研究があること自体は事実ですが、それを今回の人物へ直接当てはめるのは完全に別の話です。

だから、この部分を「薄毛だから摂食障害」「摂食障害だからクレプトマニア」とつなげるのは、さすがに話が飛びすぎでしょう。

むしろ今回の事件を見ていて気になるのは、別のところです。

人は「慶應」「帰国子女」「海外育ち」といった分かりやすい肩書きを見ると、その人の人生まで順調だと思い込んでしまう。

そして、そのイメージと違う事件が起きた瞬間に「なぜ?」が一気に膨らみます。

でも、本当に見るべきなのは肩書きとのギャップではなく、実際に何が起き、どの行動が確認され、なぜ本人が「衝動的だった」と説明しているのかでしょう。

 

現時点では、新沢容疑者がクレプトマニアだと判断できる材料はありません。

ただ、「どう考えても割に合わない行動をなぜ取ったのか」という疑問が残るからこそ、この言葉が検索されるのだと思います。

経歴が華やかだから不思議なのではありません。

失うものの大きさに対して、報じられている行動があまりにも小さな欲求から始まっているように見える。

おそらく、多くの人が本当に引っかかっているのはそこなのではないでしょうか。