ハローキティが、砂漠をさまよう乃木憂助になっていました。

TBSの日曜劇場『VIVANT』とサンリオキャラクターズのコラボグッズで、キティのほかにもシナモロールやマイメロディたちが、ドラマの登場人物に変身しています。

そのコラボを、2026年10月28日に中国のサンリオが、29日には日本のサンリオも、立て続けに中止しました。

理由はどちらも「企業理念にそぐわない表現が含まれている」というもの。

ドラマの中で中国の組織が拷問する場面に中国が強く反発したからやめたのか、それともサンリオが理念を守ったのか、ネットではこの2つの見方がぶつかっている状態です。

中止を喜ぶ声がある一方で、「そもそも、なぜ最初にOKを出したのか」「なんで謝る必要があるの?」という声も出ています。

サンリオの企業理念と、会社が生まれたいきさつまでさかのぼると、7月の発売から10月の中止までの4か月の動きが、かなりはっきり見えてきました。


人気ドラマと組んだ乃木ティ

中止のニュースで「サンリオとVIVANTがコラボしていたの?」と初めて知った人も多いかもしれません。

報道によると、コラボグッズの販売が始まったのは2026年7月3日で、TBSの通販サイト「TBSショッピング」と、東京駅のキャラクターストリートに開かれた期間限定の店で売られていたそうです。

主役は、触るとむにゅっと柔らかい「むにゅぐるみ」というぬいぐるみで、バッグに付けられるカラビナ付き。

ほかにシールやキーホルダー、Tシャツも並び、ファンのあいだでは「乃木ティ」という呼び名まで生まれていました。

なぜOKしたのか、と聞かれたら、まず思い浮かぶ答えは「人気があるから」でしょう。

2023年の前作は日曜劇場の大ヒット作で、続編は日曜劇場としては異例の2クール(半年ほど)続けての放送が決まっていました。

東京駅の店は抽選や先着の予約制で、ひとり1商品1個までと決められるほどの人気だったようです。

娘さんのぶんと自分のぶんを買い分けている人もいて、ドラマのファンとサンリオのファンがちょうど重なる、うまい組み合わせに見えていたんですよね。

 

サンリオにとって、人気作品とのコラボは珍しいことではありません。

巨人と人類の戦いを描く『進撃の巨人』とは2021年からコラボを重ね、2025年には第4弾の商品も出ていますし、不良どうしのケンカが続く『東京リベンジャーズ』とのコラボもありました。

争いや暴力の出てくる人気作品とも、これまで普通に組んできたわけです。

ただ、キティが演じた乃木は、自衛隊の秘密部隊「別班」の一員で、任務のために銃を手に取る場面もある、スパイ物語の主人公。

中止のニュースへの反応には「キティに人殺しの役をやらせるのは絶対におかしい」という声もあり、かわいいぬいぐるみとスパイの物語の取り合わせが、いまになって問われる形になりました。


「みんななかよく」と甲府の空襲

ここで、サンリオがいちばん大事にしている言葉を見ておきます。

企業理念は「みんななかよく」です。

公式サイトの企業理念のページには、「どんな人間も、たったひとりで生きることはできないのではないでしょうか」「ともに生きる仲間たちと信じあい、仲よく生きていくこと」と書かれています。

この言葉の後ろにあるのが、創業者の体験。

報道によると、創業者の辻信太郎は1927年に山梨県甲府市で生まれ、市街地の7割以上が焼けた1945年7月の甲府空襲を経験した人で、その体験から、人は一人では生きられず助け合うものだと考えるようになったそうです。

1960年に前身の山梨シルクセンターを立ち上げたときも、政治や思想を声高に訴えるのではなく、贈り物やグリーティングカードで人と人をつなぐ商売を選んだと紹介されています。

社名のサンリオは、スペイン語で「聖なる河」という意味。

創業者のメッセージには、河のほとりに集まる人たちが「お互いに思いやりを持ち、仲良く暮らせるコミュニティ(集団)を作りたい」という願いを込めた、とあります。

「みんななかよく」は、空襲を生きのびた人が会社に込めた言葉でした。

 

この成り立ちと、VIVANTの続編の中身を並べてみると、どうでしょうか。

秘密部隊の任務、国と国との駆け引き、そして10月の放送回で問題になった、中国の組織が日本の隊員を拷問する場面。

空襲を知る創業者が「仲よく」を掲げた会社と、国どうしの争いを描くスパイドラマは、ほとんど正反対の場所にあると感じてしまいます。

環球時報がコラボ商品を取り上げる3日前の10月25日には、戦史・紛争史の研究家の山崎雅弘も、創業者の戦争体験に触れながら、このコラボに驚く投稿をしていました。

翌26日には「#サンリオはVIVANTコラボやめろ」というハッシュタグをつけた投稿も出ていて、中国の新聞がサンリオを名指しする前から、日本の中にも同じ疑問を持つ人がいたということ。

中止のニュースに「サンリオ、それでいい!」という声が上がったのも、この成り立ちを知るとうなずけます。


続編の放送より先に並んだグッズ

では、理念とここまで離れているのに、なぜOKが出たのか。

日付を並べ直すと、もう1つの事情が見えてきます。

コラボグッズの発売は、7月3日。

ところが、続編の第1話が放送されたのは、それから3週間あまりあとの7月26日でした。

キティが乃木になって店に並んだとき、続編はまだ1話も放送されていなかったのです。

問題になった拷問の場面が流れたのは、さらに2か月あまりたった10月4日のこと。

サンリオがどこまで台本や中身を知ったうえでOKを出したのかは、公表されていません。

ただ少なくとも、問題になった場面が世に出る前に、キティを貸すことは決まっていたことになります。

もちろん、2023年の前作の時点で物騒なドラマだと分かっていたはず、というツッコミももっともです。

ただ前作の舞台は「バルカ共和国」という架空の国で、問題になった、中国の秘密情報組織とされる組織が拷問する場面が流れたのは、続編の10月4日になってからでした。

日本のサンリオもお知らせの中で、「今後のコラボレーション企画については、確認体制を一層強化してまいります」と書いています。

人気作品だからと先にキティを貸し、放送された場面を見てから、理念に照らして取り下げた。

なぜOKしたのか、への答えは、理念と照らし合わせる前に、人気が先に走っていたということなのかもしれません。


中止を最初に告げたのは上海の法人

では、10月に何が起きていたのか。

始まりは、いま放送中の続編の10月4日の回で、報道で「中国の秘密情報組織」とされる組織のメンバーが、別班の隊員の指を切り落とすなどの拷問を加える場面があったそうです。

そこから中止までの流れを並べると、こんな具合。

  • 10月中旬 中国のSNSで批判が出始める
  • 10月25日 中国の国営テレビ系のニュースアカウントが論評で非難
  • 10月26日 中国共産党の機関紙・人民日報系の新聞「環球時報」が「中国脅威論を誇張している」と批判
  • 10月28日 TBSの社長が会見で「特定の国を敵視したり、おとしめたりする意思はない」と説明
  • 10月28日 環球時報が社説でコラボ商品を取り上げ、その日のうちにサンリオの中国法人が謝罪とコラボ中止を発表
  • 10月29日 日本のサンリオも公式サイトでコラボ終了を発表
  • 10月29日 中国外務省の報道官も会見でドラマを批判

環球時報の社説は、ハローキティの名前を挙げて「日本の右翼とともに踊るべきでない」とまで書いたと報じられています。

キティからすれば、ぬいぐるみになっただけなのに、いつの間にか国と国のにらみ合いの真ん中に立たされていました。

 

ここで引っかかるのが、発表の順番です。

報道で伝えられている売り場は日本の通販サイトと東京駅の店で、中国の報道を見ても、中国で売られていた、あるいはいつどこで売る予定だった、という具体的な話は出てきません。

それなのに、中止を最初に発表したのは、上海にあるサンリオの中国法人だったのです。

声明は中国語で、ハローキティの公式微博(中国のSNS)に出され、コラボに「サンリオグループの企業理念にそぐわない表現が含まれている」として「深くお詫び申し上げます」と謝り、今後の企画や宣伝もすべて止めると書いていたと伝えられています。

中国のニュースサイト・鳳凰網は、この声明が中国のSNSにだけ出て、海外向けの公式アカウントには出ていないとして「特供道歉(中国向けだけの謝罪)」と書きました。

日本のサンリオのお知らせが出たのは、その翌日の29日です。

日本で買った人から見れば、自分たちの手元にある品物の話を、先に海の向こうのSNSで知らされた形になってしまう。

中止を喜ぶ声の陰で、日本の中の商売が外からの圧力で引っ込められる前例になるという心配も出ているわけです。

ドラマそのものへの批判が、国会議員が放送法を持ち出す騒ぎにまで広がった流れは、こちらにまとめました。

小西ひろゆき議員のVIVANT放送法発言
VIVANT放送終了の危機?小西議員の放送法発言を整理してみた2026年10月29日、ネットのまとめサイトに「VIVANT放送終了か」という見出しが並び、ドラマのファンがざわつきました。 発端は前日...


謝ったのは何に対してか

もう1つ、ネットで目立っているのが「そもそも謝る必要があったの?」という声。

中国法人の謝罪を伝えるニュースには、「なんでキティちゃんが謝るんだよ」「本来謝る必要は無いよなぁ」といった書き込みが並びました。

フィクションのドラマに国が口を出し、それを受けて日本の会社が頭を下げる。

その形そのものにモヤモヤしている人が多いんですよね。

一方で、日本のサンリオのお知らせを「ごまかしのない誠実なコメント」とたたえる声もかなり大きく、ここは本当に受け止めが割れています。

 

では、実際には何に対して謝っていたのか。

日本のお知らせの書き出しは、「さまざまなご意見を頂戴しており、ご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」です。

謝っている相手は、意見を寄せ、心配した人たち。

そして中止の理由は、「サンリオの企業理念にそぐわない表現が含まれていると判断し」の1つだけで、どの場面のどんな表現かは書かれていない。

だから、理念を守ったと読む人も、中国に気をつかったと読む人も、同じ文章からそれぞれの答えを持ち帰れてしまいます。

そして置き去りになっているのが、グッズを買った人や、届くのを待っていた人たち。

書かれているのは「現在、必要な対応を速やかに進めております」の1行だけで、すでに買った人や予約していた人がどうなるのかは、まだ示されていません。

企業理念を理由にコラボを切った以上、ほかの会社が掲げる理念も同じ目で見られる、という皮肉まで出ています。

人気で始まり、「企業理念」を理由に終わった4か月。

どちらの見方に立つにしても、キティを貸す前に物語を確かめられなかったことには、首をかしげてしまいますね。