FANTASTICSの公式Xに、2026年10月20日の昼、中国語と日本語の2つの言葉で書かれたお詫びが出ました。

台北での単独ライブを終えたばかりのタイミングで、日本のファンからは「え、何があったの?」という声が上がっています。

きっかけは、メンバーの佐藤大樹と八木勇征の中国のSNSに書かれた「中国台北」という言葉でした。

台湾を中国の一部として扱う言い方だとして、まず台湾のファンが怒り、事務所は投稿を消しました。

ところがお詫びが出ると、今度は中国本土(中華人民共和国)のファンが怒り出しています。

公式が謝ったはずなのに、なぜ反対側からも怒りの声が上がったのか。

10月17日に台北へ着いてから、お詫びが出るまでの4日間で、何が起きていたのでしょうか。


FANTASTICSのプロフィール

グループ名 FANTASTICS from EXILE TRIBE(略してファンタ)

所属 LDH JAPAN

結成 2016年12月

メジャーデビュー 2018年12月、シングル「OVER DRIVE」

メンバー パフォーマー=世界(せかい)・佐藤大樹(2人ともリーダー)、澤本夏輝、瀬口黎弥、堀夏喜、木村慧人/ボーカル=八木勇征・中島颯太の8人

EXILEと同じ事務所LDHに所属するグループで、2017年のオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION 5」で八木勇征と中島颯太がボーカルに選ばれ、いまの形になりました。

いまのメンバーは8人です。

メジャーデビューの5か月前の2018年7月6日に中尾翔太が胃がんのため22歳で亡くなっていて、メンバーはいまもグループを「9人」と言い表しています。


微博に書かれた「中国台北」という言葉

台北でのライブ「放大絶」は、2026年10月18日の夕方、台北の南港地区にあるライブハウス「Legacy TERA」で開かれた、グループにとって初めての海外単独公演でした。

前日の10月17日には、台北の松山空港に400人を超えるファンが出迎えに集まったと、台湾のテレビ局TVBSが伝えています。

空港で佐藤大樹が抱いていたひまわりのぬいぐるみは中尾翔太のためのもので、「僕たちはずっと9人」という気持ちを込めたと、佐藤大樹本人がTVBSに話しています。

ライブのあと、佐藤大樹と八木勇征の微博(ウェイボー)に、台北公演のお礼の投稿が上がりました。

微博は中国本土の人がおもに使っているSNSで、日本でいえばXのようなものです。

中国本土ではXがブロックされていてふつうには使えないので、中国本土のファンにメンバーの言葉を届けようとすると、どうしても微博のような中国のSNSが要ります。

ファンへの発信の場は、日本や台湾のファンが見るXと、中国本土のファンが見る微博の2つに分かれています。

ただ、SNSが分かれていても、微博の投稿はスクリーンショットになって台湾のファンの目に届き、台湾のニュースサイトもその画像を載せて伝えています。

 

台湾のニュースサイト「壹蘋新聞網」によると、2人の投稿には「第一次來到中國台北開演唱會」「中國台北的首場演唱會」(どちらも、中国台北での初めてのコンサートという意味)という言葉が入っていました。

これを見た台湾のファンは、こう反発しています。

「來我們這裡還要吃我們豆腐」(わざわざこっちに来てまで、私たちをなめてるの?)

「想賺中國的錢就去中國」(中国でお金を稼ぎたいなら、中国へ行けばいい)

 

台湾では、「台北」の前に何が付くかで意味がまるで変わります。

オリンピックなどで台湾が使う名前は「中華台北」で、1989年に台湾と中国の五輪委員会が取り決めた呼び方です。

一方の「中国台北」は中国本土の側がよく使う言い方で、口にすれば「台湾は中国の中の一地方です」と言っているのと同じ意味になってしまいます。

「華」と「国」の1文字違うだけに見えて、台湾の人には、自分たちの国を中国の一部だと決めつける言葉に聞こえるんですね。


公式が出したお詫びの中身

お詫びが出た20日の昼、日本のニュースサイトに並んでいたのは、台北公演の成功を伝える記事でした。

オリコンが12時15分に配信したライブレポートの見出しは、八木勇征の「ようやく台北に来ることができました!」という言葉で、13時13分にはリアルサウンドもライブの様子を伝えています。

そのわずか30分あまりあとの13時47分に、公式Xにお詫びが載りました。

日本のファンの目には、「大成功」と「お詫び」がほとんど同時に届きました。

ライブの成功とお詫びのあいだにあった騒ぎは台湾や中国本土のファンのSNSの中で起きていて、日本語のニュースにはなっていなかったのです。

台湾のニュースサイトが騒ぎの中身を伝えたのも、お詫びが出たあとのことでした。

Xに上がった「情報が追いつかない」という日本のファンの戸惑いは、日本語で読める情報が途中だけ抜け落ちていたことから来ていたのでしょう。

 

そのお詫びの日本語の部分は、次のとおりです。

一部SNSアカウントへの投稿に関し、海外向けの投稿業務をLDH JAPANが外部業者に委託しておりました。

委託先との作業過程において翻訳内容に行き違いが生じ、確認も不十分であったため、当該投稿を削除いたしました。

このたびは、皆様にご心配とご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

今後は投稿内容の確認を徹底し、再発防止に努めてまいります。

 

台湾の芸能ニュースサイト「ETtoday」も、2つの投稿はメンバー本人が書いたものではなく、代わりに投稿されたものだと伝えています。

ただ、お詫びには「台湾」も「中国」も、問題になった「中国台北」という言葉も、1つも出てきません。

委託先がどこの業者なのかも、明かされていません。

日本のファンからは、メンバーの名前で出る言葉を外に任せきりにしていたことを心配する声も出ています。


「訳のミス」という説明への疑問

お詫びの「翻訳内容に行き違い」という説明には、中国本土のファンから「具体的に何を間違えたのか、なぜ正面から説明しないのか」という問いが向けられています。

この件には、3通りの読み方が出ています。

  • 業者が訳したときに、中国本土でふつうに使う「中国台北」がそのまま入った(公式の説明)
  • 業者がわざと「台北」を書き換えた(ネットで見かける推測)
  • 事務所が中国本土のファン向けに、あえてその言い方を選ばせた(同じく推測)

1つ目には、お詫びの文面と、2つの投稿は代わりに書かれたものだと伝えた台湾の報道という裏付けがあります。

中国本土では、中国の旅行サイト「Trip.com」のコンサートの案内にも「中國台北」と付けた例があるほど、この言い方がよく使われていて、中国本土向けの書き方のまま訳せば、この言葉は自然に入り込みます。

一方で、2つ目と3つ目を示す報道や記録は、いまのところ出ていません。

 

どこで「台北」が「中国台北」になったのかは、お詫びにも報道にも書かれていません。

ただ、何をどう間違えたのかを具体的に書けば、その瞬間に、台湾か中国本土のどちらかの言い方を「間違い」と呼ぶことになります。

答えればもう片方を怒らせてしまうのだとしたら、お詫びが「何が間違いだったのか」に触れられないのも無理はありません。


謝ったら中国本土のファンが怒った理由

台湾のニュースサイト「壹蘋新聞網」は、お詫びのあとに出た中国本土のファンの声をこう伝えています。

「你們是完全不要中國市場了麼」(もう中国の市場はまったく要らないってこと?)

「現在這意思就是擺明要選擇站隊了」(これって、はっきりどちらの側に立つか選んだってことだよね)

 

中国本土の側から見ると「中国台北」は当たり前の言い方なので、それを消して謝ったことは「台湾の側に立ちます」と言ったのと同じに映ったわけです。

しかもお詫びの中国語は、中国本土で使われる簡体字ではなく、台湾で使われる繁体字で書かれていました。

お詫びが載ったのも公式のXとInstagramで、どちらも中国本土ではブロックされていて、ふつうには使えないSNSです。

中国本土のファンからは「这个时候会打繁体字了」(こういうときは繁体字が打てるんだね)という皮肉まで飛んでいます。

次の投稿は日本語ですが、「中国のファンからしたら」と、中国本土のファンの立場から書かれています。

中国語と日本語のお詫びでは、誰に向けて謝っているのか、その書き方も少し違います。

日本語は「皆様に」ですが、中国語は「對於此次事件讓長期支持 FANTASTICS 的粉絲朋友們感到失望與不安」(長いあいだFANTASTICSを応援してきたファンをがっかりさせ、不安にさせたこと)を謝っています。

台湾の字で書かれ、「中国台北」を消したことへのお詫びなので、中国本土のファンに「その〈長いあいだのファン〉に自分たちは入っていない」と受け取られても仕方のない書き方でした。


同じことは前にもあった

八木勇征が中国語圏で広く知られるようになったきっかけは、2021年11月にMBS(毎日放送)で始まったドラマ『美しい彼』です。

男子高校生どうしの恋を描いた作品で、八木勇征は俳優の萩原利久とダブル主演し、清居奏という役を演じました。

2023年にはシーズン2も放送されています。

このドラマで中国での知名度が上がり、2022年1月に八木勇征が微博を開いたときは、24時間で3万件を超えるコメントが寄せられたとモデルプレスが伝えています。

 

その『美しい彼』のまわりでは、4年前にも似たことが起きています。

2022年11月、原作の小説を書いた凪良ゆう(2020年と2023年に本屋大賞を受けた作家)が、台湾の出版社から届いた繁体字版の見本についてXに投稿し、「中国のファン」に楽しんでほしいと書きました。

台湾の読者からは「台湾のファンは中国人ではない」という声が上がり、凪良ゆうは投稿を消して、「私のミスと勘違いのせいで大切なファンを傷つけてしまいました」と謝っています。

上の投稿は今回の台北公演のあと、台北でのサイン会の写真が中国本土で人気のSNS「小紅書」に載ったことについて、台湾のファンが書いたものです。

「外国の人にとっては、中国語ならどれも同じに見える」「誰かを責めたいわけじゃない」と、落ち着いて受け止めています。

同じ作品や同じグループのファンが台湾と中国本土の両方にいるから、中国語の1語が、片方には当たり前の言葉に、もう片方には消してほしい言葉になってしまうんです。

 

向きが逆の例もあります。

2016年1月、韓国のグループTWICEの台湾出身メンバー、ツウィのことが中国本土で大きな問題になりました。

前の年の11月に、韓国のネット番組で台湾(中華民国)の旗を持っていたからです。

事務所のJYPエンターテインメントとツウィ本人が謝罪の動画を出すと、今度は台湾で「なぜ謝らせるのか」と大きな反発が起き、台湾のトップを選ぶ総統選挙の日にまで話題が広がっています。

ツウィのときは中国本土の怒りに謝って台湾が怒り、今回は逆の順番で同じことが起きています。

2018年には日本航空と全日空も、中国の航空当局に求められて中国語のページを「中国台湾」に変え、台湾から抗議を受けると、7月には予約画面から「中国」「台湾」の文字そのものを外しています。

どちらの名前も出さないところは、今回のお詫びとよく似ています。

ただ今回は、名前を出さなくても、繁体字という字の形が、そのお詫びがどちら向きの言葉なのかを語ってしまいました。


台北のステージでメンバーが選んだ言葉

台湾のテレビ局TVBSは、お詫びを受けて台湾のファンの怒りは収まったと伝えています。

一方で、中国本土のファンの怒りの投稿は、20日の夜になっても続いていました。

 

騒ぎの前、台北のステージで、八木勇征は手元のメモを見ながら長い中国語のお礼を読み上げています。

「謝謝大家這麼歡迎我們,終於能夠一起來到台北」(温かく迎えてくれてありがとう、やっとみんなで台北に来られました)で始まり、「請台北的大家多多支持我們」(台北のみなさん、これからも応援してください)で締めくくる言葉でした。

中島颯太は何度も「大家嗨嗎」(みんな盛り上がってる?)と叫び、佐藤大樹は、7年ほど前にメンバーで中国語を習ったときのノートを読み返してこの日に備えたと、台湾のメディアに話しています。

台北まで見に行った日本のファンも、台湾で受けたやさしさを、楽しい思い出として書き残しています。

 

どちらの言い方を選んでも、台湾か中国本土のどちらかの言葉を「間違い」と呼ぶことになる場所で、メンバーが自分の口で選んだのは「台北のみなさん」でした。

台湾からも中国本土からも怒りの声が上がるきっかけになったのは、メンバーが選んだその言葉ではなく、メンバーの名前で微博に出た「中国台北」のほうだったんですよね。