テスト前の夜、広い自習室で、学生たちが黙々とノートに向かっている。

2026年9月25日、近畿大学の公式Xが流したのは、そんな様子を定点で撮った20秒ほどの動画でした。

添えられていたのは「ある日の女性専用自習室。」という一言と、24時間使えるのでテスト期間は深夜まで勉強している学生が多い、という説明だけ。

ところがこの動画に、「男性差別だ」「同じ学費なのにおかしい」という声が次々とつき、大学へ苦情や問い合わせを送ったと公表する人まで出てきました。

その一方で、「必要に決まっている」「そこまでする執念のほうが怖い」と感じた人も多いはず。

今回は、近大の女性専用自習室をめぐる反対の言い分と、女性専用の場所が求められてきた理由、そして大学に届いた苦情や問い合わせの中身まで、わかりやすく解説していきたいと思います。


近大の女性専用自習室は9年前からある

まず、どんな部屋なのかを知らないと、賛成も反対も話がかみ合わないですよね。

動画に映っていたのは、東大阪キャンパスの「アカデミックシアター」3号館にある、24時間使える自習室です。

大学の案内によると、1階が女性専用で約100席、2階が男女どちらも使える約150席とのこと。

使えるのは近大の学生だけで、事前に座席を予約し、学生証を持って入る仕組みになっています。

大学の公式動画の説明によると、防犯ブザーも備えられているとのこと。

 

そして、この部屋の始まりは9年前。

アカデミックシアターが開いた2017年4月の時点で、大学はすでに「女性専用室を含む24時間利用可能な自習室」として発表していました。

当時の発表を読むと、予約した学生しか入れないようにして、女子専用室や深夜の利用者を管理し、セキュリティを強める、と書かれています。

つまり、女性専用の部屋は、開設の時点から安全のための仕組みとして組み込まれていたんです。

ネットでは「過去に男子学生が何かしたから作られた」という話も広がっていますが、それを裏づける報道や大学の発表は見当たりません。

大学に苦情を入れた側のアカウントも、9月29日に大学の広報へ確認したところ、設置の趣旨は「安全面への配慮を含む学習環境の配慮」だったと報告しています。

何かが起きてから女性専用にしたのではなく、最初から分けておいた、という順番です。

近大では福岡キャンパスにも女性専用の自習室があり、2026年3月の改装でパウダールームや更衣室まで新しく設けられたとのこと。

9年間ほとんど話題にならなかった部屋が、大学自身が紹介した20秒の動画ひとつで、急に賛否の真ん中に置かれたことになります。

同じ建物の2階を使っているという男子学生からは、こんな声も。

当の男子学生の側から、「困っていない」という声が出ているわけです。


「同じ学費なのに」という反対の声

とはいえ、反対している人の言い分も、一度きちんと並べておきたいところ。

特に目についたのが、学費を理由にした声。

大学の投稿には、こんな返信がついていました。

同じお金を払っているのに、性別で入れる部屋が違う。

この点に引っかかる人がいるのは、分かる気がします。

 

ほかにも、ネットでは次のような声が出ていました。

  • 男子専用の部屋がほしいのではなく、フェアであってほしいだけ
  • 設備に差をつけるなら、学費にも差をつけるべき
  • あってもいいが、それは「合理的な差別」だと認めるべき
  • 近大でそうした事件は見つからず、予防のために分ける効果は薄いのでは

どれも、筋道を立てて考えている人の声です。

中でもいちばん具体的なのが、卒業生だという人のこの声でした。

テスト期間に、共用の2階は満席なのに、1階の女性専用には空席がある。

男子学生から見れば、目の前に空いた席があるのに座れないわけで、これは実際に起きている不便です。

大学が公式YouTubeに載せている2023年7月〜2024年6月の利用者数を見ると、1階(約100席)が2万9,091人、2階(約150席)が6万254人で、1席あたりにならすと2階のほうが4割ほど多く使われている計算。

2017年の開設時の紹介記事では、全体で約2400席ある自習スペースのうち、24時間使えるのはこの250席とされていて、大学の案内でも試験期は予約できる期間や時間が絞られるなど、混み合う時期として扱われています。

並べてみると、反対の声の多くは「男子学生が同じ条件で使えない」というところに集まっているんですね。

一方で、これに対しては、女性はもともと加害への不安から共用の自習室を使いにくかったのだから、女性専用ができて「選択肢がマイナスからゼロになった」だけだ、と書いた人もいました。

学費の理屈を突き詰めると、「図書館や体育施設は使わないので、施設設備費は払いません」という話にまで広がってしまう、と指摘する声も。

「同じ条件」を考えるなら、女性がもともと同じ条件で自習室を使えていたのか、というところも気になってきます。


大学のトイレやジムで起きてきた盗撮

では、大学の中で女性が安心して過ごせないような出来事は、本当に起きているのでしょうか。

まず近大の共用の自習室について、元近大生だという人がこんな体験を書いていました。

事件にはならなくても、戻った席がそれでは、その日はもう勉強どころではなくなりますよね。

報道になった例では、近大以外の大学のトイレで盗撮が相次いでいます。

  • 2023年7月:筑波大学の大学院の建物のトイレで盗撮被害。大学が警備を強めたうえで注意を呼びかけた
  • 2025年10月:島根県立大学の学生が、学内の女子トイレに入り込んで盗撮したとして逮捕された
  • 2026年1月:三重県内の大学施設の女子トイレで、個室の天井に小型カメラを仕掛けて撮影した疑いで、21歳の大学生が逮捕された(撮影は2023年5月)

大学以外にも目を広げると、2025年10月には栃木県那須塩原市のフィットネスクラブで、女性専用のエリアに入り込んでシャワー室の女性を盗撮した疑いで、市の職員が逮捕されたと報じられました。

「女性専用」と書いてあるだけの場所にも、入り込んでくる人はいるということです。

 

そして、ここに並んだのは、逮捕や報道にまでなった話だけ。

警察に届けるほどでもない、でもずっと忘れられない小さな出来事のほうが、身に覚えのある人は多いかもしれません。

こうした出来事は、統計にも報道にもほとんど残らないもの。

近大で事件が見つからないから分ける効果は薄い、という声もありますが、最初から分けていたから起きていないのかもしれず、事件の数だけでは効果を測りきれないもの。

女性専用の部屋は、こうした報道にならない出来事を、最初から遠ざけておくための場所なのだと思います。


大学に届いた苦情と7つの質問

そして、今回「怖い」と言われているのが、大学への問い合わせと苦情です。

動画の翌日の9月26日、ある人が、アカデミックシアターの担当者あてに送ったという問い合わせの文面を、Xで公開しました。

1階の約100席が女性専用で、同じ学費を払う男子学生が使えないのは「明らかな男性差別」だとして、憲法14条1項(法の下の平等)を引いたうえで、7つの質問が並んでいます。

7つのうち、たとえばこんな質問です。

  • 男性の利用を認めていない具体的な理由と必要性は何か
  • 安全のためなら、男女共用の施設の防犯対策で達成できない理由は何か
  • 在学中の男子学生の意見を踏まえて検討したのか
  • 今後、施設の運用を見直す予定はあるか

文面だけを見れば、丁寧な言葉で書かれています。

ただ、7つの質問の中に、その部屋を使っている女子学生がどう感じているのかを尋ねる項目は見当たりません。

 

同じ日には、別のアカウントが「苦情のメールを送りました」と投稿し、「男性の皆さん、撤廃運動にご協力お願いします!!」と、問い合わせ先まで添えて呼びかけていました。

このアカウントは9月28日には、アカデミックシアターの学生センターに電話をかけて「男性差別」だと苦情を入れ、撤廃を申し入れたとも報告しています。

そして9月29日には、大学の広報にまで確認を。

自習室ひとつをめぐって、抗議の窓口が案内され、4日のうちにメール、電話、広報への確認と続いていく流れです。

問い合わせを公開したポストには、こんな反応も寄せられていました。

2階を使っているという男子学生は「学生でも無いのに」と書いていましたが、問い合わせた人が近大の学生なのかどうかは、ポストからは分かりません。

大学がどう答えたのかも、いまのところ出てきていないようです。

 

そしてもうひとつ、読んでいて背筋が寒くなった投稿があります。

問い合わせを公開したのと同じアカウントが、同じ9月26日、公開より数時間前に大学の動画を引用して、こう書き込んでいたのです。

「この動画に映っている全ての女性が、憲法違反の、法の下の平等を毀損した、唾棄すべき男性差別主義者ってことですよね?」

矛先が、部屋の仕組みから、画面の中で勉強していた学生たちへ移っていました。

女性専用の自習室は、知らない誰かの目を気にせずに勉強できる場所でもあります。

その部屋の様子が動画で広く見られたとたん、中で勉強していた学生たちまで、顔も知らない人から言葉を向けられる側に回ってしまった。

守るために分けた部屋の中の人が、分けたことを理由に責められる。

いちばんゾッとするのは、そこなんですよね。

言葉の選び方はかなり強めですが、性別の話ではなく行為の話として読むと、今回の流れにそのまま当てはまります。

画面の中の学生たちに向けられた言葉が強くなるほど、この部屋がなぜあるのかが、かえって見えてきてしまうんです。

知らない誰かに「勉強している姿を見られていた」という寒気を知っている人ほど、今回の投稿を他人事とは思えなかったはず。


女性専用が差別と言われるたびに

こうした言い合い、前にもどこかで見た気がしませんか。

女性専用車両、女性専用のジム、男性だけでは入れないプリクラのコーナー。

「女性専用」の看板が話題になるたびに、「差別だ」「いや安全のためだ」という同じやりとりがくり返されてきました。

どれも、ごく一部の人の迷惑行為を防ぐために、場所ごと分けるという方法をとっている点は同じ。

 

反対する人の言う「公平」にも、必要だと言う人の言う「安全」にも、それぞれ筋はあります。

ただ、どちらが正しいかだけで言い合っていると、見えなくなるものも。

それは、その場所で、実際に困っているのは誰なのかという一点です。

近大の場合、使っていたという学生からは「困っていない」という声も、「大変しんどかった」という声も出ています。

しんどかったという声は、試験期の、24時間使える共用の席が埋まってしまう時期の話。

 

では、男性差別なのか。

男女で分けているので、区別であることは間違いありませんし、試験期に共用の席が埋まって不便だったという声があるのも事実です。

ただ、女性専用をなくしても、今度は女性が深夜に安心して使える席が消えるだけで、試験期に席が足りないこと自体は変わりません。

差別として女性専用を責めるより、試験期の席の足りなさとして考えたほうが、男子学生の困りごとも解決に近づく、というのが私の答えです。

この部屋は、やはり必要だと思います。

制度に疑問を持つこと自体は自由ですが、どんな理由があっても、その矛先を画面の中で勉強していた学生たちに向けるのは違う、と感じてしまうんです。

テスト前の夜に、あの部屋の学生たちが誰の目も気にせずノートに向かえる。

そのいつもの景色が、これからも続いてほしいですね。