くら寿司の「ちいかわ」コラボが、翌6日の朝で打ち切りになると発表されたのは、2026年9月5日の夕方でした。

中の人が景品を抜いて売っていた、と会社が自分の口で認めています。

まだ誰の手にも渡っていない寿司皿まで、いっしょに消えました。

 

そのあとXに並んだのが「賠償金」と「逮捕」の2語です。

訴えられて賠償金ヤバそう。

今度こそ逮捕されてほしい。

そこで、この不正転売でいくら動いたのかを調べていったのですが、途中で妙なことになりました。

 

抜いた人が受け取ったのは、たぶん15万円ほどなんです。

いっぽう、同じ回転寿司チェーンで似た事件が起きたとき、会社が求めた賠償額は6700万円でした。

そして、その6700万円が最後にいくらで決着したのかは、いまも公表されていません。

 

ちなみに、私たちのところへ戻ってくる額は0円です。

 

ただ、この0円のほうには続きがありました。

客へ返した会社ほど国に納めるお金が減る、という決まりが景品表示法のほうに置いてありまして。

8月31日の広報は偶然だと答えた

先に、日付を並べておきます。

始まりは2026年8月21日で、終わりは9月30日の予定でした。

ですから、ちょうど折り返したあたりで止まったことになります。

8月の下旬から、フィギュアが出ないという報告がXに並びはじめました。

 

2026年8月31日、くら寿司の広報がこの偏りについて説明しています。

1つの筐体に全種類を均等に入れるルールではない

複数の種類が混ざった箱からランダムに補充する仕様なので、特定の種類が続かないように感じられることがある。

この説明、たぶん嘘ではありません。

ガチャの機械を全種類きっちり均等にしなさい、という決まりは、もともとどこにもないからです。

 

ただ、この説明が出たころには、外側の数字のほうが先に動いていました。

フリマアプリに、ガチャの景品が250個から300個、のぼりなどの販促物が十数点、短い期間にまとめて並んでいたと指摘されています。

しかも配布がまだ始まっていない湯呑みが、すでに売り切れの表示になっていたという報道まで出ていました。

ここで、話がかみ合わなくなります。

店では万単位を使ってもフィギュアが続けて出ない。

その一方で、フリマにはほぼ全種類そろったロットが固まって出てきます。

この二つは、同じ日に成り立ちません。

 

そのうえで9月2日、会社は調査に入ることを公表しました。

そして9月5日の夕方、従業員による不正行為が判明したとして、コラボを丸ごと中止しています。

偶然だと答えてから、不正でしたと認めるまでが5日でした。

 

毎日照合していると会社は書いた

ここが、あとの金額の話に効いてきます。

8月31日の説明には、続きがありました。

景品の取り扱いは厳格なガイドラインで運用している。

そして、ビッくらポンの当選実績にもとづいて、毎日、整合性を記録・確認している、と。

 

読み流しやすい一行ですが、よく見るとかなり重いことを言っています。

当たりが何回出たかと、景品が何個減ったか。

この二つを毎日突き合わせていた、という意味ですから。

だとすると、抜かれていた店では、届いた数と、出した数と、箱に残っている数のどれかが、毎日合っていなかったことになります。

一日だけの話ではありません。

8月21日から数えれば、二週間ぶんです。

 

会社は自分の口で、見えていたはずだと言ってしまったことになります。

自分の仕組みで見つけられたはずのものを二週間見つけられなかったのだとしたら、このあと出てくる請求書の金額は、じつはここから削られていきます。

管理がずさんだった、という読み方をしている方です。

そして、表に出したのはメルカリのほうだった、とも書いています。

この二つは、金額の話をするときに両方とも効いてきます。

罰金があるのは窃盗罪のほうだけ

まず罪の名前からいくと、店の景品を持ち出して売った場合は二つに分かれるんです。

 

ひとつが窃盗罪で、刑法235条。

10年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金です。

景品を任されていない立場の人が持ち出したときは、こちらに当たります。

もうひとつが業務上横領罪で、刑法253条。

こちらは10年以下の拘禁刑だけ。

在庫そのものを預かる役割だった人が持ち出したときは、こちらになります。

 

上限はどちらも10年で、そこは変わりません。

ただ、並べてみると業務上横領のほうには罰金という選択肢がないんですよね。

任されていた人ほど逃げ場が少ない、ということだと思います。

それと、無許可のまま繰り返し売っていたのなら、古物営業法違反も乗ってきます。

ただ、どれが成立するかは立場と回数しだい。

いま公表されているのは「従業員による不正行為」の一行だけなので、ここから先は外からは決められません。

 

そのうえで、逮捕の話です。

ここは、期待している方ほどがっかりしやすいところなので、先に書いてしまいますね。

手錠をかけられる場面まで行くとは限りません

逮捕というのは、罰として行われるものではないからです。

逃げられるかもしれないし、証拠を消されるかもしれない。

その心配があるときに限って、先に身柄を押さえておくための手続きなんです。

 

勤め先も住所も分かっていて、本人も認めているとします。

そういう相手なら、家にいるまま調べが進むケースはよくあります。

報道が出ないぶん、外から見ていると止まってしまったように感じるだけでして。

ただ、その裏では別のものが先に動いているはずです。

会社の懲戒処分は、警察の判断を待ちません。

キャンペーンを丸ごと止めるという、いちばん高くつく選択をした会社が、関わった人をそのまま置いておくとは考えにくいところですよね。

 

なお、ここまでは制度としての一般的な説明です。

今回の誰かがそう判断された、という話ではありません。

 

フリマの300個で15万円ほど

では、お金の話にいきます。

まず、抜いた側がいくら受け取ったのか。

 

フリマに並んでいたと指摘されているのが、ガチャの景品で250個から300個です。

そしてフィギュアの取引価格は、2026年8月の時点で300円から2400円、真ん中あたりが500円ほどと調べた方がいます。

掛けてみましょう。300個を500円で売って、15万円です。

人気の種類が混ざって相場より高く売れたとしても、せいぜい倍でしょう。

 

のぼりや店内パネルのような販促物は、数が出ないぶん値が張ります。

それでも十数点なので、全部足して数十万円というあたりが上限です。

ここが、今回この件を調べていていちばん手が止まったところでした。

抜いた人が受け取ったのは、たぶん給料ひと月ぶんくらいなんです。

 

大金ではあります。

ただ、このあと出てくる額と比べると、あまりにも釣り合っていません。

スシローは6700万円を請求した

次は、会社が失ったほうの額です。

抜かれたフィギュアの原価そのものは、たいした額になりません。

問題は、中止で行き場を失ったもののほうでした。

 

9月18日から配る予定だった寿司皿は、その日程に間に合わせるのですから、もう刷り上がって運び終わっているはずのタイミングです。

抽選で50名に贈るショートエプロンと、コラボメニュー2品のために仕入れた食材。

そして、くら寿司は国内外で694店舗を数えるチェーンです。

そのほとんどに配られたのぼりと販促物が、いっせいに用済みになりました。

さらに、テレビCMだけは止まっていません。

会社のお知らせにも、CMのほうはまだ開催中の内容が流れている、と断り書きが入っていました。

 

ここで、試算は止まります。

寿司皿を何枚刷ったのか、のぼりが1本いくらなのか、CMを何本流したのか。

くら寿司は、そのどれも出していません。

 

そこで、似た事件のほうを見にいきました。

2023年1月、スシローの岐阜正木店で、少年が醤油差しの注ぎ口をなめる動画が広まった件です。

運営するあきんどスシローは同じ年に、この少年へ約6700万円の損害賠償を求めて大阪地裁へ訴えを起こしました。

動画のあと客足が落ち、親会社の時価総額は160億円以上下がったとされています。

醤油差し1本で6700万円です。

店舗を丸ごと巻き込んだ景品の抜き取りが、それより軽く済むとは考えにくいところですよね。

 

ここで、よく引き合いに出される判例の話をしておきます。

会社は損害の4分の1程度しか請求できない、というものです。

ただ、あれは居眠り運転でタンクローリーを壊してしまった事案で、つまりうっかりの話だと思います。

盗って売った行為は、うっかりではありません。

では満額がまっすぐ通るのかというと、そこもそう単純ではないんですよね。

賠償の額は、その損がどこまでその人の行為から出たものかで決まります。

毎日突き合わせていたはずの数が二週間合わないままだったのなら、その二週間ぶんをまるごと一人に載せられるのか、という話は必ず出てきます。

会社の管理の甘さは、罪のほうは軽くしません。ただ、請求できる額のほうは動かします

 

そして、スシローの件には続きがありました。

6700万円の訴えは、その年の7月に取り下げられています。

少年側が責任を認めて調停が成立した、というのが会社の説明でした。

では、実際にいくら払われたのか。

公表されていません

 

請求した額と、決着した額と、私たちが知れる額。

この3つは、あの件でも最後まで一致しませんでした。

 

1万8000円払った人には戻らない

3つめが、私たちのところへ戻ってくる額です。

補償、どうするんだろう。

この一言と同じことを書いている人が、この夜だけで何人もいました。

 

先に、はっきりさせておきますね。

損害賠償は、失われたものを取り戻すための制度ではありません

会社が受けた損を、会社が取り返すための仕組みです。

つまり、抜いた人からいくら取れたとしても、そのお金が向かう先はくら寿司の口座。

1万8000円ぶん食べてフィギュアが0個だった人のところへは、一円も流れません

 

では法律のどこかに、客へ返しなさいという道はないのか。

景品表示法という法律はあります。

ただ、あれは実際よりよく見せる表示を国が止めるための制度でして、一人ひとりへ返金しなさいと命じる仕組みではないはずです。

課徴金という制度もありますが、あれは国に納めるお金。

払った人へ戻るものではありません。

返金というものがもしあるとすれば、それは会社が自分の判断でやる場合に限られるわけです。

制度のほうから降ってくる話ではないんですよね。

 

いちおう、理屈だけなら一本だけ道があります。

民法の使用者責任という考え方で、雇っている人が仕事の中で誰かに損害を与えたとき、雇っていた会社のほうも一緒に責任を負う、というものです。

まず客がくら寿司へ、そのあとで、くら寿司のほうが本人へ求めます。

抜いた個人へ直接向かう道は、はじめから客の側には無いんです。

正直に言うと、あまり期待はできません。

ハズレを引いたことは、法律上の損害としてはとても数えにくいものだからです。

寿司は食べていますし、当たり自体は出ています。

 

ただ、そこにひとつだけ、性格のちがうお金が混ざっていました。

ビッくらポンには、寿司皿1皿につき10円を足す「ビッくらポン!プラス」という仕組みがあります。

会社の案内には、確率が上がるではなく、3回に1回必ず当たると書かれていました。

10円は、おまけへの気持ちではありません。

約束に対して払った代金です。

返してほしいという声が、ただの八つ当たりに聞こえないのは、この10円があるからだと思います。

 

そして、賠償ではどうやっても戻らないものが、もうひとつありまして。

明日の予約と、大泣きした子どもの一日です。

ここは、請求が満額通ったとしても回復しません

10円の行き先は景品表示法だった

詐欺じゃないのか。

あの夜のリプ欄でいちばん多く見かけたのが、この一言でした。

 

ただ、詐欺という罪には形があって、だました人が自分でお金を受け取るところまでが一続きになります。

10円を受け取ったのは、抜いた人ではありません。

会社のレジのほうです。

ですから、この10円は刑法へは向かいません。

向かう先は景品表示法のほうになります。

 

さきほど、返金を命じる制度ではないと書いた法律です。

ただ、そこには知っておくと見え方が変わるところが二つありまして。

ひとつめは、わざとかどうかを聞かれないところ。

3回に1回は当たると書いたのに当たらなかった、という状態のほうを見る仕組みなので、中で誰が何をしたのかは言い訳の材料になりません。

従業員が勝手にやりました、が通らない側の法律でして。

ふたつめが、返金の話です。

違反だと認められた会社は、対象になった売上の3%を課徴金として国に納めます。

さかのぼれるのは最長で3年ぶん。

そして、納める前に客へ返しておくと、返した額のぶんだけ課徴金から引かれます

返した額が課徴金に届いてしまえば、納めるお金そのものが残らない計算です。

つまり返金は、会社の気持ちひとつで決まるものではありません。

返したほうが安く済む形が、制度の側にあらかじめ置いてあります。

レシートを持っていけば戻るかもしれない、という声に根拠があるとすれば、そこですね。

オマケだと思っていたけれど、10円があるから話が変わってきます。

そこへ自分でたどり着いている方です。

 

そして、この法律で先に転んだ会社が、さっきの章にも出ていました。

スシローです。

2022年6月9日、うにやかにのキャンペーンで、広告を出したまま品物を出さなかったとして措置命令を受けています。

対象になったキャンペーンは3つでした。

ただ、このとき課徴金は付いていません。

広告と品物が食い違う型は、課徴金のある入り口から外れているからです。

今回もしどこかに当たるとすれば、そちらではなく3回に1回のほう

こちらは、課徴金のある側です。

ここで、あの一行がもう一度出てきます。

毎日、整合性を記録・確認している、というあの一行。

賠償の話では、この一行は会社の首を絞めていました。

見えていたはずだ、と読めてしまうからです。

ところが景品表示法のほうへ持っていくと、同じ一行が会社を守る側へ回ります

相当の注意を払っていた会社からは課徴金を取らない、という決まりがあるからです。

 

そう並べると、9月5日の夕方に会社が何をしたのかが見えてきます。

偶然だと答えた日から5日で、まだ折り返したばかりのキャンペーンを丸ごと畳みました。

いちばん高くつく選択に見えますが、止めた日から先の売上は、もう対象になりようがありません

 

なお、ここまでは制度のつくりの話です。

くら寿司が違反だと決まったわけではありませんし、返金についても6日の朝の時点で会社からは何も出ていません。

 

鍵付き倉庫の店も同じ一行に入った

今回の発表で、いちばん多く運ばれた一行があります。

当社の従業員による不正行為が判明した、というところです。

 

会社はこの一行に、人数も、店舗名も、立場も書きませんでした。

調査が終わるまで書かないのは、会社の文書としては珍しくありません。

ただ、外から読むと、主語のほうは全員に広がります

開催前に店内の配置を変えて、みんなで作戦を練って、いつもより早く出勤して十時間以上働いた。

ビッくらポンも巾着も湯呑みも、鍵付きの倉庫に入れていた。

この方のお店では、そうやって守られていたわけです。

 

しかも、店ごとの差はここだけではありませんでした。

閉店まで並んで入れなかった人に、湯呑みを配った店があったらしい、という話です。

仕事を早退して予約の時間に駆け込んだ側からすると、たしかに納得のいかない配り方でしょう。

ここで分かるのは、最後の判断はどこも店の現場が持っていたということです。

数えるのも、渡すのも、配り方を決めるのも、同じ場所にありました。

抜こうと思えば抜けてしまう形が、そのまま残っていたのだと思います。

 

日本の神話に、天岩戸(あまのいわと)という有名な話があります。

スサノオという神様が高天原で乱暴を働いたせいで、太陽の女神アマテラスが岩の戸の奥に隠れてしまい、世界中が真っ暗になってしまう、というものです。

乱暴をしたのは一柱ですが、日の光を失ったのは全員のほうでした。

残された神々は暗闇の中で、明かりを取り戻すために自分たちで宴を開くしかありません。

鍵をかけていた店も、抜いていた店も、同じ一行の中に入りました。

そして9月6日の朝からは、どちらの店でも景品は配られません

7時半に出勤して十時間働いていた

そして、この件でいちばん刺さったのは、会社の発表でも報道でもありませんでした。

くら寿司で働いている人が、その日の勤務をそのまま書いた投稿です。

自分くら寿司の従業員なんですけど、という一行から始まっていました。

表示回数は、一日で568万回。

 

読んでいて意外だったのは、怒りの向きでした。

矛先が、抜いた誰かのほうへ向いていないんです。

通常は9時のところを7時半に出勤させられて、契約したときのシフトよりも大幅に延ばされて、十時間働いた。

その翌日に、キャンペーンごと終わりますと言われた。

この方は続きにこう書いていました。

こんなに従業員が辛い思いをしているのに、賃金はそんなに上がらない。

上がっていても、ほんとうに、ほんとうに割に合わない、と。

この続きのほうにも、そうだそうだ、と並んでいます。

くら寿司の店員さんへ、と呼びかけたうえで、多くの店員さんは頑張っているよ、と書いている方もいました。

 

この二つの投稿は、言っていることが正反対に見えます。

片方は会社に怒っていて、もう片方は店員をねぎらっている。

ただ、指している場所は同じでした。

抜いた人ではなく、抜かれた店に立っていた人たちのほうです。

賠償を請求されるのは、抜いた人です。

いま割を食っているのは、請求されない側の人たちのほうでした。

 

そして、この記事を書いているあいだに、その投稿のほうが開けなくなっています。

リンクをたどっても、ポストが見つかりませんという画面が出るだけでした。

なぜ消えたのかは分かりません。

ただ、店の名前を出して自分の働き方を書けば次の出勤日が気まずくなることくらい、本人がいちばん先に分かっていたでしょう。

消えてしまったけれど、準備を頑張っていたのは伝わってきた。

そう書き残している方もいます。

いちばん先に消えたのは、抜いた人の名前ではありませんでした

 

そして請求書が届いても、この人たちの十時間は返ってきません。

 

数える人と渡す人が同じ人だった

最後に、これからのことを。

今回の抜き取りが見つかったのは、抜き方が極端だったからでした。

17回当たって、フィギュアは0個。

そこまで出なければ、さすがに何かおかしいと分かります。

 

抜き方が半分で止まっていたら、この二週間の報告はぜんぶ引きの弱い人の愚痴として流れていたはずなんですよね。

だから、次に見たいのは謝罪文の言葉づかいではありません。

景品を数える人と、当たりを渡す人を、別々にするかどうかのほうです。

毎日確認していると自分で言った仕組みで、二週間止められなかった。

そうである以上、変えるところはもうそこしか残っていません。

 

そこが変わらないかぎり、次のコラボでは、当たりを引いた瞬間に箱の中を見てしまう人が増えます。

それは疑い深くなったからではなくて、一度こういうことがあったから、というだけの話ですね。