北海道江別市で起きた大学生暴行死事件。

2026年に裁判が始まり、判決、そして控訴へと進む中で、事件当日の様子や被告たちの証言が少しずつ明らかになっています。

事件の残虐さに衝撃を受けた人は多いでしょう。

しかし、それ以上に多くの人が違和感を覚えたのは、裁判で語られた被告たちの言葉だったのではないでしょうか。

  • 「主に暴行したのは自分ではない」
  • 「言われたからやった」
  • 「何も考えていなかった」
  • 「止められなかった」

 

もちろん、それぞれの立場で事実を説明することは裁判で認められた権利です。

それでも、「自分の責任」を少しずつ外へ置こうとするような証言に、複雑な思いを抱いた人も少なくありません。

今回は事件の経緯を整理しながら、人はなぜ「自分は悪くない」と思ってしまうのか、その心理について考えてみたいと思います。

 

江別大学生暴行死事件 

2024年10月に北海道江別市で起きた大学生暴行死事件は、多くの人に大きな衝撃を与えました。

2026年に裁判が始まり、事件当日の様子や被告たちの証言が少しずつ明らかになる中で、改めて社会の注目を集めています。

まずは事件の経緯と、裁判で判明した内容を整理します。

 

事件の経緯

2024年10月、北海道江別市で大学生・長谷知哉さん(当時20歳)が男女6人から集団暴行を受け、命を落とす事件が起きました。

事件の発端は、交際していた八木原亜麻被告との別れ話だったとされています。

八木原被告は友人の川村葉音被告に相談し、川村被告は長谷さんへ「殴るから来いよ」などと電話をかけ、公園へ呼び出しました。

そこで待っていたのは、男女6人による約2時間にわたる集団暴行でした。

 

殴る、蹴る、飛び蹴りを繰り返すだけでなく、全裸にさせられ、髪に火をつけられたり、背中にたばこを押し付けられたりするなど、暴行は執拗に続いたとされています。

暴行の途中には、「全部出せ」「全額」などと脅され、現金やキャッシュカード、クレジットカードも奪われました。

その後、奪ったカードで現金を引き出したほか、コンビニで買い物をするなどの行為も確認されています。

これら一連の行為が、単なる暴行致死ではなく強盗致死罪に当たると判断される大きな理由となりました。

翌26日朝、公園で全裸の状態で倒れている長谷さんが発見されましたが、死亡が確認されます。

交際トラブルから始まった出来事は、あまりにも残虐で理不尽な集団暴行事件として、日本中に大きな衝撃を与えました。

裁判で明らかになったこと

裁判では、音声データやLINEのやり取りなどが証拠として提出され、事件の全貌が明らかになりました。

法廷では、長谷さんが何度も「すみません」「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝る声や、それを笑う被告らの様子が再生され、多くの人に衝撃を与えました。

また、暴行後に奪ったカードを使ってコンビニで30箱以上のたばこや食品を購入し、現金約12万円を引き出していたことも判明しました。

さらに、一部の被告らが事件後にラーメン店で食事をしていたことも法廷で取り上げられ、遺族は「弟を見殺しにして食べたラーメンは美味しかったですか」と厳しく問いかけています。

裁判では事件の残虐性だけでなく、犯行後も日常と変わらない行動を取っていたことが、多くの人に強い衝撃を与えました。

 

さらに、被告人質問では、それぞれが事件当時の行動について証言しています。

  • 「主犯に言われたからやった」
  • 「止めたかったが止められなかった」
  • 「何も考えていなかった」
  • 「自分は見ていただけだった」

こうした証言に対し、裁判長が「何も考えていなかったでは反省にならない」と指摘する場面もありました。

事件の残虐さだけでなく、被告たちが自らの行動をどのように受け止めているのかにも、多くの人の関心が集まっています。

現在の裁判と判決の状況

2026年6月、札幌地裁は川村葉音被告に懲役30年、滝澤海裕被告に懲役20年、事件当時16歳だった少年に懲役9年から13年の不定期刑を言い渡しました。

一方で、検察は「量刑が軽すぎる」として控訴し、川村被告側も判決を不服として控訴しています。

また、他の被告についても裁判が続いており、この事件全体の司法判断はまだ終わっていません。

裁判が進むにつれ、多くの人が注目したのは事件の残虐さだけではありませんでした。

被告たちが、自らの行動をどのように説明し、なぜ「自分は悪くない」と考えてしまうのか。そこにも、大きな関心が集まっているのです。

6人の被告

この事件では、男女6人が強盗致死などの罪で起訴されています。

それぞれ立場や役割は異なりますが、裁判では誰がどのように事件へ関わったのかも大きな争点となっています。

川口侑斗被告(主犯格とされる)

川口侑斗被告は、事件を主導した人物とされています。

裁判では、暴行を積極的に加えたほか、他の被告へ指示を出していたとする証言も明らかになっています。

事件後、「自首したい」と相談した滝澤海裕被告に対し、「うるせえ、自分だけ自首しろ」と話していたことも法廷で明らかになりました。

現在も裁判が続いており、事件全体の経緯についてどのような証言をするのか注目されています。

八木原亜麻被告(被害者の元交際相手)

八木原亜麻被告は、長谷知哉さんの交際相手でした。

事件の発端となった別れ話の後、友人だった川村葉音被告へ相談したことが、事件につながるきっかけになったとされています。

現時点では裁判が続いており、公判でどのような経緯が語られるのか注目されています。

川村葉音被告(長谷さんを呼び出したとされる)

川村葉音被告は、長谷さんへ電話をかけ、「殴るから来いよ」などと言って公園へ呼び出したとされています。

裁判では、

  • 「怖くて止められなかった」
  • 「主犯格に逆らえなかった」

などと証言していますが、その一方で

  • 「勝手に暴力が始まったので関係ないと思った」
  • 「何も考えていなかった」

といった趣旨の供述もありました。

2026年6月、一審では懲役30年の判決が言い渡されましたが、本人・検察双方が控訴しています。

滝澤海裕被告(暴行に加わったとされる)

滝澤海裕被告は、長谷さんへ飛び蹴り、いわゆる「ライダーキック」をしたことなどが裁判で明らかになっています。

しかし、裁判では

  • 「川口被告に言われたからやった」
  • 「やらないと悪い雰囲気になると思った」

と証言し、集団の空気に流されたことを理由の一つとして挙げています。

一審では懲役20年の判決を受けました。

当時17歳の少年

事件当時17歳だった少年も、暴行へ加わったとして起訴されています。

少年事件であるため公表されている情報は限られていますが、他の被告とともに事件へ関与したとして裁判が進められています。

当時16歳の少年

当時16歳だった少年は、暴行の様子を動画で撮影したことなどが裁判で明らかになっています。

本人は「撮れと言われたから撮った」と証言し、指示に従っただけだったという趣旨の説明をしています。

一審では懲役9年から13年の不定期刑が言い渡されました。

興味深いのは、6人それぞれ立場や関与の程度は違うものの、多くの被告が

  • 「指示された」
  • 「逆らえなかった」
  • 「主犯ではない」
  • 「被害者にも原因があった」

といった趣旨の説明をしていることです。

 

もちろん、刑事裁判では自分の立場や関与の程度を説明することは重要です。

しかし、多くの人が裁判を見て違和感を覚えたのは、「誰が悪かったのか」を語る一方で、「自分は何をしたのか」と向き合う言葉があまり聞こえてこなかったことではないでしょうか。

この「自分は悪くない」という心理こそ、この事件を考える上で大きなテーマの一つになっています。

なぜ「自分は悪くない」と思ってしまうのか

裁判で明らかになった被告たちの証言を見ると、ある共通点が浮かび上がってきます。

それは、誰もが少しずつ自分の責任から距離を置こうとしているように見えることです。

もちろん、裁判では自分の立場を説明することは認められています。

ただ、多くの人が強い違和感を覚えたのは、「自分は悪くない」という意識が、それぞれの証言の中ににじんでいるように感じられたからではないでしょうか。

 

「原因は被害者にあった」という考え

事件の発端は、被害者の長谷知哉さんが交際相手だった八木原亜麻被告に別れを告げたことだったとされています。

裁判では、そのことに腹を立てたという趣旨の証言も報じられています。

たしかに、別れ話や人間関係のもつれで感情的になることはあるでしょう。

しかし、それは暴力を正当化する理由にはなりません。

 

「相手にも原因があった」

そう考え始めると、人は自分の行動まで正しいものだったと思い込みやすくなります。

怒りを感じることと、暴力を振るうことはまったく別の問題です。

その境界線が曖昧になった時、人は自分の責任まで小さく考えてしまうのかもしれません。

 

「主に暴行したのは自分じゃない」という心理

裁判では、

  • 「主犯に言われたから」
  • 「止められなかった」
  • 「見ていただけだった」
  • 「何も考えていなかった」

といった趣旨の証言も報じられています。

実際、それぞれの被告が果たした役割には違いがあり、刑事責任の重さも裁判で判断されるべきものです。

 

しかし、多くの人が引っかかったのは、「自分にも責任があった」と向き合う言葉よりも、「自分はそこまで悪くない」という説明が目立っていたことでした。

人は追い詰められると、自分を守ろうとします。

  • 「自分より悪い人がいた」
  • 「自分は命令されただけ」

そう考えることで、心の負担を少しでも軽くしようとするのです。

ですが、その考えを全員が持てば、誰も責任を引き受ける人はいなくなってしまいます。

 

「何も考えていなかった」は理由になるのか

裁判では、川村葉音被告が「何も考えていなかった」と繰り返し証言し、裁判長が「何も考えていなかったでは反省にならない」と指摘する場面がありました。

このやり取りが、多くの人の心に残った理由もそこにあるのでしょう。

人は重大な結果が起きた時、「考えていなかった」「流されてしまった」と説明したくなることがあります。

ですが、命が失われたという結果は変わりません。

だからこそ、多くの人は「何をしたか」だけではなく、「その結果にどう向き合っているのか」を見ています

 

今回の事件で残った違和感は、暴力の残虐さだけではありません。

誰もが少しずつ責任を外へ置こうとしているように見えたこと。

そこに、この事件のもう一つの恐ろしさがあったのではないでしょうか。

人はなぜ責任から目をそらしてしまうのか

「自分は悪くない」

そう思いたくなる気持ちは、決して現代だけのものではありません。

旧約聖書に登場する「カインとアベル」の物語は、人類最初の殺人として知られています。

兄のカインは、弟アベルへの嫉妬から命を奪ってしまいました。

そして神から「弟はどこにいるのか」と問われると、素直に罪を認めるのではなく、「私は弟の番人でしょうか」と答えます。

ガエターノ・ガンドルフィ『カインとアベル』

一見すると質問に答えているようですが、本質は少し違います。

自分が何をしたのかではなく、「自分だけが責められる立場ではない」という方向へ話を移そうとしているのです。

もちろん、今回の事件と神話を同じものとして語ることはできません。

ですが、人は追い詰められた時、自分の行動より先に「なぜそうなったのか」という理由を探してしまうことがあります。

  • 「あの人にも原因があった。」
  • 「自分より悪い人がいた。」
  • 「流されただけだった。」

そう考えることで、自分の罪を少しでも軽く感じようとするのです。

今回の裁判で、多くの人が違和感を覚えたのもそこではないでしょうか。

 

人は、失敗や過ちを犯すことがあります。

しかし、本当に問われるのは、その後どう向き合うのかです

責任から目をそらし続ければ、同じ過ちを繰り返すかもしれません。

だからこそ、この事件は単なる集団暴行事件ではなく、「人はなぜ自分を正当化してしまうのか」という、人間の弱さそのものを私たちに問いかけているように感じます。

この事件を他人事では終われない理由

江別大学生暴行死事件は、多くの人に大きな衝撃を与えました。

しかし、この事件がここまで人々の心に残り続けているのは、暴行の残虐さだけではないように思います。

裁判を通して見えてきたのは、

  • 「原因は被害者にあった」
  • 「主に暴行したのは自分ではない」
  • 「言われたからやった」
  • 「何も考えていなかった」

など、それぞれが自分の責任を少しずつ外へ置こうとしているように受け止められる証言でした。

 

もちろん、法廷では自分の立場や事実関係を説明することは認められています。

また、刑事責任の重さは、それぞれの関与の程度によって判断されるべきものです。

それでも、多くの人が強い違和感を覚えたのは、「何をしたのか」以上に、「その結果とどう向き合っているのか」が見えにくかったからではないでしょうか。

 

人は誰でも、自分の過ちを認めるのは苦しいものです。

だからこそ、「相手にも原因があった」「自分だけが悪いわけではない」と考えてしまうことがあります。

その気持ちは、人間の防衛本能なのかもしれません。

しかし、その考えが積み重なると、誰も責任を引き受ける人がいなくなります。

今回の事件は、決して日常のトラブルと同じではありません。

ですが、「自分は悪くない」と思いたくなる弱さは、誰の心にも潜んでいます。

だからこそ、この事件は単なる凄惨な犯罪としてではなく、人はなぜ責任から目をそらしてしまうのかという問いを、私たち一人ひとりに投げかけているように感じます。

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