芦田愛菜さん主演のドラマ『南田南弁護士は天才肌』の第1話が、2026年10月19日に放送されました。

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を、日本で作り直した作品です。

放送のあと、原作を観ていた人たちのあいだで、名場面だった回転ドアが、エスカレーターに変わっていたことが話題になりました。

原作を観た人からは「なぜ回転ドアのままにしなかったのか」と惜しむ声が上がり、その一方で「2004年に六本木で起きた事故を思えば」と受け止める人もいます。

22年前、東京の六本木ヒルズの回転ドアで、6歳の男の子が亡くなる事故がありました。

あの場面を楽しみに待っていた人ほど、なぜ変えたのか、本当の理由が気になりますよね。


南田南弁護士は天才肌のプロフィール

タイトル 南田南弁護士は天才肌

放送 カンテレ・フジテレビ系、毎週月曜よる10時(2026年10月19日スタート)

原作 韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022年)

主演 芦田愛菜(南田南役)

主なキャスト 高橋文哉(船井湊人役)、角田晃広(南の父・誠役)、平岩紙(事務所代表・広川凪沙役)、山口馬木也(南の上司・宮地賢吾役)

脚本 田辺茂範、モラル

配信 TVer・カンテレドーガ(見逃し)、Netflix(各話の放送後に配信)

主人公の南田南(みなみだ・みなみ)は、東大の法学部を首席で卒業し、司法試験にもトップで受かった新人弁護士です。

自閉スペクトラム症(人との関わり方や、音や動きの感じ方に生まれつきの特性がある発達障害の一つ)があり、驚くほどの記憶力を持っています。

そして、大のクジラ好き。

演じるのは、子役のころからおなじみの芦田愛菜さんです。

名前 芦田愛菜(あしだ・まな)

生年月日 2004年6月23日(22歳)

出身 兵庫県

代表作 ドラマ『Mother』(2010年)、『マルモのおきて』(2011年)

 

高橋文哉さんが演じる船井湊人は、パラリーガル(弁護士の仕事を支える事務の担当者)で、南が職場で気兼ねなくクジラの話をできる同僚です。


回転ドアがエスカレーターになった場面

原作のウ・ヨンウは初出勤の日、事務所が入ったビルの回転ドアに入るタイミングがつかめず、立ち尽くしてしまいます。

通りがかる人たちが不思議そうに見ていくなか、事務所の訴訟チームで働くイ・ジュノ(日本版の湊人にあたる人物)が手を貸してくれます。

ジュノが「ワルツを踊るんだと思ってみては」と声をかけ、2人で「ズン・チャ・チャ」とリズムを刻みながら回転ドアを抜ける場面は、原作の名場面です。

 

日本版では回転ドアがエスカレーターに変わり、南はその前で足が止まってしまいます。

第1話で南は、初出勤の朝と、仕事で病院へ話を聞きに行ったときの2回、立ちすくみます。

湊人が「リズムをとってみるとか」と声をかけ、2人は並んでリズムをとりながらエスカレーターに乗りました。


「回転ドアがよかった」という声

原作のファンからは、たとえばこんな点を惜しむ声が上がっています。

  • 踊るように回転ドアを進むウ・ヨンウが美しかった
  • あの場面で、ジュノの心がウ・ヨンウに近づいた
  • エスカレーターだと、2人の距離が縮まる感じが弱い

「事故への配慮なら仕方ない」と受け止める人がいる一方で、原作のファンが納得しきれないのには、もう1つわけがあります。

原作の回転ドアの場面は、もともと、危ないとわかっているドアをそれでもくぐる話だったからです。

原作の第1話で、ウ・ヨンウは回転ドアの弱点をいくつも挙げていて、その1つが「子どもやお年寄りがドアに挟まれるおそれ」でした。

原作のファンから「配慮することと、描かないことは違う」という声が出るのも、このためです。


2004年に六本木で起きた事故

日本で回転ドアといえば、2004年3月26日に東京・港区の六本木ヒルズで起きた事故があります。

六本木ヒルズ森タワーの入り口にある大型の自動回転ドアに、6歳の男の子が挟まれて亡くなりました。

亡くなった男の子とご家族のことを思うと、今も胸が痛みます。

 

六本木ヒルズの大型の回転ドアでは、事故の前から子どもが挟まれる事故が続いていました。

失敗の事例を集めた『失敗知識データベース』によると、2003年4月にビルが開業してから事故までの1年足らずで、大型の回転ドアの事故は12件あり、そのうち7件は8歳以下の子どもが挟まれたものでした。

同じデータベースには、ドアの天井のセンサーが、男の子くらいの背丈だと感知できない高さに設定されていたことも記されています。

ウ・ヨンウが心配していたとおりのことが、六本木では事故の前から、現実に何度も起きていたのです。

 

事故のあと、森ビルは大型の自動回転ドアを使うのをやめ、およそ1か月後にはすべて取り外す方針を決めました。

国土交通省と経済産業省も2004年6月にガイドラインをまとめ、回転をゆっくりにすることや、回転ドアのほかに別の形のドアも並べて置くことを求めました。

東京ドームのように、空気の圧力で屋根を支えている建物では、空気が逃げないよう今も回転ドアが使われています。

ただ、ふだんの暮らしの中で回転ドアを見かけることは、ほとんどなくなりました。


回転ドアをやめた理由の3つの説

回転ドアをやめた理由については、大きく分けて3つの見方が出ています。

その1 事故への配慮

六本木の事故を紹介した投稿では、地上波で放送することの影響を考えてエスカレーターにしたのでは、と書かれていました。

「子どもやお年寄りがドアに挟まれるおそれ」という原作どおりのセリフを日本の地上波で流せば、六本木の事故を知る人には、22年前に本当に起きたこととして聞こえてしまいます。

 

その2 回転ドアのある建物が少ない

日本の街には回転ドアが少ないから、という見方です。

六本木ヒルズが大型の回転ドアを取り外し、国のガイドラインでも別の形のドアを並べることになったので、撮影に使える回転ドアは限られそうです。

投稿した人は、密閉された回転ドアに初対面の男性と入るのは怖い、という女性の目から見た理由も挙げていました。

 

その3 撮影の手間

原作で主演のパク・ウンビンは、韓国のニュースサイトのインタビューで、回転ドアの場面を100回以上撮ったと話しています。

日本版の撮影にどれだけ手間がかかったかは、まだ伝えられていません。

 

決め手がどれだったのかは、制作側が語るまで分からないままです。

ただ、その1とその2は、どちらもたどっていくと2004年の六本木の事故につながっています。

回転ドアのセリフが重く聞こえるのも、街から大きな回転ドアが減っていったのも、あの事故が大きなきっかけになったからでした。


キンパはおむすびに・刑法の場面はそのまま

日本の暮らしに合わせて置き換えたのは、エスカレーターだけではありません。

原作のウ・ヨンウの父はキンパ(韓国ののり巻き)の店を営んでいますが、日本版の父・誠が営むのはおむすびの店です。

南のために父が毎日作るのも、塩むすび3つとおかずのセットです。

エスカレーターも同じ置き換えです。

駅やデパートで毎日のように乗る場所なので、南の足が止まってしまうあの感じを、自分の体で覚えている人はたくさんいます。

 

一方で、原作のまま残った場面もあります。

幼い南が刑法をすらすらとそらんじる場面には、「日本では漢字を習わない未就学児が刑法を暗誦することは絶対ない」と指摘する声も上がっています。

刑法の場面が残ったことを考えると、回転ドアの場面が変わった理由は、日本の暮らしになじまないことだけではなさそうです。


「海の底に潜っていくみたい」の一言

原作のウ・ヨンウは、回転ドアを抜けて新しい職場へ入っていきました。

日本版の南は、ゆっくり下っていくエスカレーターの上で、「なんだか深く海の底に潜っていくみたいです!」と口にします。

2つの場面を比べると、たとえを口にする人が、原作と日本版で逆になっています。

原作で「ワルツを踊るんだと思ってみては」と、たとえを口にしたのはジュノでした。

日本版の湊人は、「タイミングさえつかめれば乗れないですかね、エスカレーター。たとえばリズムをとってみるとか」と、具体的な手がかりを口にしています。

そこから「海の底」というたとえを見つけたのは、南自身。

 

原作では、この回転ドアをきっかけに2人が出会い、ジュノはウ・ヨンウに好意を寄せていきます。

日本版では、南が自分の言葉で怖い場所をクジラのいる大好きな海に変えたので、2人の距離よりも、南の心の中の世界のほうが強く描かれています。

原作のファンが2人の距離が縮まる感じを弱く受け取ったのも、日本版を観た人が「深い海に潜っていく感じって表現もすごく好き」と書いたのも、たとえを口にする人が原作と逆になったからでしょう。

 

日本版から回転ドアが消えた理由の候補をたどると、行き着くのは22年前の六本木です。

あの名場面を惜しむ気持ちの向こうに、日本ではこの扉で失われた小さな命があったということなのでしょう。